各国で活躍するビジネスリーダーを輩出し、MBAで世界の頂点に立つハーバード・ビジネス・スクール(以下、HBS)が日本に拠点を置いていることを知っている方は少ないかもしれません。
実は、HBSは世界5カ所にリサーチセンターなる拠点を設けており、常にグローバルな視点でリサーチとケーススタディ*1の作成を行っています。
*1=企業が実際に直面した問題について学生が議論する授業
日本のリサーチセンターでは、HBS教員の研究ニーズに合った情報収集や、新規ケーススタディを作成するためのインタビューのセッティング、ドラフト作成などを担うほか、理解促進のために様々な場でHBSについて話をしたり、要請があれば企業に出向いて社員にHBSの教育論やリーダーシップ論などの説明を行います。
本稿では、同センターの佐藤信雄所長にHBSの特徴やリサーチセンターの役割、日本のビジネススクールの課題などについて取材した内容を2回に分けてお伝えします。
米国に偏っていたケーススタディをグローバル化
HBSにリサーチセンターができたのは、1996年に当時の学長がグローバル・イニシアチブ・プロジェクトを開始したことがきっかけです。
HBSでは年間300以上のケーススタディを作っていますが、世界経済がどんどんグローバル化しているのに対し、米国の事例に偏り過ぎている傾向を修正するために各地に拠点を設け始めました。
アジア・パシフィックを担当する香港を皮切りに、これまでラテンアメリカ(ブエノスアイレス)、日本(東京)、欧州(パリ)、インド(ムンバイ)にリサーチセンターを開設。
来年は中東を担当するイスタンブールのセンターがオープンする予定です。その成果もあり、2011年は新規ケーススタディの50%強が米国以外の事例でした。
「HBSのグローバル戦略は、海外にサテライト校をつくるのではなく、あくまでも拠点はボストンのみで、その代わりリサーチとケーススタディといったコンテンツをグローバル化するという方針です。要するに世界中から優秀な学生がボストンに来ればグローバルな視野が得られるというアプローチです」と佐藤所長は説明します。
では、HBSではどのようにケーススタディが作られるのでしょうか。佐藤所長によると、まずは教授のニーズありきとのことです。
新しいケーススタディを作る理由は、既存のコースの場合、教授の指導目的に今ある事例が必ずしもフィットしない、または古くて学生がピンとこないという2点があります。一方、新規のコースを始める際には、新しいケーススタディの作成が必要となる場合が多くあります。