「貸し渋り」と言われる現象はベトナムの金融現場にもある。日本の金融現場と比べると事情は大きく異なるが、「貸し渋り」であることに変わりはない。ただし、ベトナムの「貸し渋り」を統計データによって客観的に評価することは難しい。

 拠り所となる統計データとしてはIMFの国別リポートがあり、ベトナムについては、IMF第4条コンサルテーションに際して2012年4月に作成された「IMF Country Report No. 12/165 Vietnam」が参考となる。

 同資料の表5(Table 5. Monetary Survey 2008 – 2013 1/)を見ると、2008年以降の貸出推移が金融機関別(国営商業銀行/その他金融機関)・貸出先別(国営企業/民間企業)に示されている。

ベトナムにおける「貸し渋り」と「担保主義」の実態

ホーチミン市のマジェスティックホテルからサイゴン川対岸を望む(著者撮影、以下同)

 最近の企業向け貸出動向を一言でまとめれば、ベトナム鉱工業生産の上昇(毎年5~7%程度)を背景とし、全体として貸出金額は継続的に伸びている。

 国営企業向け貸出額が低迷する一方、民間企業向け貸出額の伸びが顕著だ。結果、貸出残高に占める民間企業向けの割合は、2008年の69%から2011年には82%にまで上昇している。

 しかし、民間企業向け貸出額の伸び率は減速している。2010年末から2011年末の伸び率は16%増となっているが、これは過去の伸び率、42%(2008年末から2009年末)、52%(2009年末から2010年末)より大幅に低下した。

 不動産投機の加熱に対する警戒が強くなっている中で、金融当局による貸出総量規制が強化されたことによる影響だ。

 ここに来て、依然として高成長を続ける民間企業セクターにとっては、金融当局による貸出総量規制の強化に伴って金融機関の貸出態度が厳格化し、全体として資金調達面で逼迫感を持ち始めていることが推察できる。

 さて、そもそもベトナムにおける「貸し渋り」とは何か。この用語自体は、従来、必ずしも明確に定義されないままに使用されている。

 日本では、日本銀行調査統計局(1992年)の「所与の市場金利水準の下における事前的な貸出需要に対して金融機関の資金供与が不足すること」、1998年度経済白書の「金融機関の貸出態度の慎重化」、その他さまざまに定義されているが、まとめると「金融機関の貸出態度の慎重化を背景とする貸出供給曲線の左方シフト」と定義できるだろう。