尖閣領海侵入、「通常の巡視活動」と中国政府

日本の領海に入った中国の漁業監視船(奥)と海上保安庁の巡視船(2011年11月)〔AFPBB News〕

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 最前線で頑張った方々には大変申し訳ないが、安全保障のプロには「まさか突っ込んでくるとは(思わなかった)」などとマスコミに言ってほしくない。

 波が高いから「上陸できない」ではなく、波が高い時に「いかに上陸してくるか」をあらかじめ考えるのが本当のプロではないのか。

 海上保安庁幹部の「まさか、そこまでして・・・」の一言がどうしても気になる。万一相手が特殊部隊だったら、彼らは必ず「そこまでして上陸し、物理的に占領する」訓練を受けているはずだ。

 今回は全員素人だったから、この程度で済んだ。不幸中の幸いと言うべきだろう。

 今回海保は「強硬手段」を用いない方針だったそうだが、今後その種の偽装「プロ」が尖閣に派遣されるのはもはや時間の問題だと思う。そうした動きを抑止するためにも、早急に海上保安庁の対応能力を一層強化する必要がある。今回の事件の最大の教訓はこれだろう。

香港と台湾の違い

 次に筆者が気になったのは香港と台湾の対応の違いだ。

 これまで香港からの「抗議船」は香港当局によって出港を阻止されてきた。ところが今回ばかりは香港側が最終的に阻止しなかったようだ。現地では香港当局が中国政府の意向をくんで出港を「事実上容認」した可能性が高いと報じられた。

 案の定、中国本土でも事件は大きく報じられ、中国各地で行われた対日抗議デモも制止されなかった。CCTV国営テレビは「抗日戦争勝利記念として最も意義のある行動」と絶賛し、ネット上でも「感激して涙が出る」などの書き込みが消されずに掲載されているという。

 一方、台湾では状況が異なる。14日に台湾から出港しようとした「抗議船」は馬英九政権から圧力がかかり、出港断念に追い込まれたという。その理由は、今回の香港・中国連携の抗議活動が日本との物理的衝突に至ることを台湾当局が懸念したためだと報じられた。

 この台湾の判断は基本的に正しかったと考える。逆に言えば、今回の中国側の一連の対応には一定の「政治的意図」が感じられるのだ。竹島をめぐりギクシャクしていた日韓関係を尻目に、中国側は尖閣問題についても対日姿勢を一段と強めようとしているのだろうか。