各種報道によれば、日本政府は今年9月の通常国会閉会後にも在中国大使を交代させる方針を固めたという。丹羽宇一郎大使の発令は2010年6月だから、任期はもう2年を超えた。9月の帰国発令が事実なら、「更迭」ではなく、「通常の交代」と説明できるだろう。
本稿の目的は特定の大使を批判することではない。そんなことをしても、結局は日本の国益を傷付けるだけだ。一方、報道の真偽はともかく、いずれ新大使は発令される。そこで今回は、いかなる人材が次期中国大使として最もふさわしいか、を勝手に考えてみたい。
在中国大使の職務
外務省には結局27年勤務した。その間多くの「特命全権大使」を様々な角度から見る機会があった。中でも北京駐在の日本大使ほど難しいポストはほかに数えるほどしかない。
そう考える最大の理由は、北京では多くの問題解決に最高度の政治判断が求められるからだ。
日中関係は裾野が広い。中東などと比べても、直接間接の利害関係者の数は桁違いに多い。
あちらを立てれば、こちらが立たない。関係者すべての面子を守ろうとすれば、直ちに袋小路に迷い込み、出口が見えなくなる。これが在中国大使の仕事の実態だ。
だからだろうか、北京駐在の歴代日本大使はほとんど例外なく、主として保守系識者・マスコミから厳しい批判を受けてきた。公平に見て、こうした批判の多くは単純な誤解や思い込みに基づくものだが、同時に、正鵠を射た厳しい指摘が少なくないことも事実だろう。
政治的センス
ある保守系論客は、「日本の大使はやはり外務省のプロが最適なのか。・・・商社マンは外交官に向かないのか」との問題提起を行っている。しかし、本来在中国大使が外務省員でなければならない理由はなく、元商社マンでも務まる可能性は十分ある。
筆者が最も重視する在中国大使の資質は政治的センスだ。要するに、政治が分かる人なら商社マンでもOK。逆に、政治オンチなら、経験豊かな外務省中国語専門家でも不適格ということだ。言葉で説明するのは難しいが、次のような情景を思い浮かべてほしい。
例えば、日中間で政治的に機微な問題が発生したとしよう。政治的センスのある大使なら、直ちに中国要人またはその側近から内々電話で情報を収集し、数時間後には日中双方が妥協可能かもしれない「政治解決」のアイデアをいくつか考えついているはずだ。