日本の大使はやはり外務省のプロが最適なのか。民間の専門家は不適なのか。特に商社マンは外交官には向かないのか――中国駐在の丹羽宇一郎大使の最近の言動がこんな基本課題を改めて提起したようだ。

 中国駐在の日本の特命全権大使、丹羽氏の言動が内外で大きな話題となった。東京都の石原慎太郎知事が進める尖閣諸島の購入計画に対して、丹羽大使は「日中関係に極めて深刻な危機をもたらす」として反対を表明したというのだ。同大使はその言葉をイギリスの有力紙「フィナンシャル・タイムズ」に語り、その通りに報道された。

 尖閣諸島は言うまでもなく日本固有の領土である。中国が不当にその領有権を主張しているにすぎない。その日本領土を日本側がどう扱おうが、日本の国家主権の行使の範囲内である。

 日本国の代表たる中国大使が中国の反発を恐れて、「深刻な危機をもたらす」から東京都による主権の行使をするなと対外的に反対を述べるというのは、あまりにも奇妙な動きである。日本の領土や主権の否定につながる反国家的な言辞にさえ響く。

丹羽大使の言動に怒り心頭の石原知事

 丹羽大使はこのインタビューに先立つ5月上旬にも、中国の習近平国家副主席に向かって、東京都による尖閣の土地購入に日本国民の大多数が賛成することを批判し、「日本の国民感情はおかしい。日本は変わった国なのだ」と述べたという。習副主席に横路孝弘衆議院議長が会った際に、同席した丹羽大使がそう発言したことが明らかにされたのだ。これまた日本の大使が日本国民の自国領土への思いを非難するのだから、どこの国の代表なのかと問いたくなる。

 事実、日本政府は丹羽大使のフィナンシャル・タイムズへの発言を日本政府の見解ではないとして否定した。藤村修官房長官が記者会見で「丹羽大使の発言は日本の政府の立場を表明したものではまったくない」と断言したのだ。

 与党の民主党でも、前原誠司政調会長が「大使の職権を超えており、適切な発言ではない」と言明した。つまり、日本の特命全権大使が対外的に日本政府の見解とはまったく異なる意見を、あたかも日本政府の見解であるかのようにして述べたということなのだ。この点だけでも大使失格である。だが、外務省は丹羽大使に懲罰的な措置を取ることはないと言明した。