6月16~17日にかけて決勝レースが行われたル・マン24時間レースで、アウディ・ワークス(メーカー自身が運営するチーム)が1~3位を独占し、「ハイブリッド動力車両によるル・マン初制覇」という記録を手にした。
このレースに、総合優勝を争うレベルでハイブリッド動力のマシンが出場したのは今年が初めて。しかもトヨタ自動車が13年ぶりにハイブリッド動力システムとマシンの両方を開発して参戦したもののリタイア(途中棄権)に終わった、ということもあって、普段はモータースポーツにはほとんど目を向けない日本のメガメディアの中にも断片的に扱ったところが少なくなかった。
その多くが、「日本はハイブリッド技術では世界をリードしているのに、優勝はアウディ」という話の流れに収めたものだった。私のところにもコメントの依頼があったので、ごく簡単に「日本車の技術は今・・・」という話はしたのだが、短い映像紹介の中では「定説を疑う」ところまでは難しい。
このコラムの読者ならすでに理解されているように、「日本車の技術は世界のトップにある」どころか「ハイブリッド車、電気自動車では日本が世界をリードしている」という概念さえ、もはや通用しない。それが当てはまったのは、ハイブリッド動力でさえ10年前までで、他は「思い込み」にすぎない。しかし日本のメガメディアは、この「定説」を疑うこともせず、ニュースの「枕詞」として繰り返し続けている。
それ以前に、自動車スポーツ競技の頂点で戦い、勝利を手にするための技術と戦略は、量産車技術とはまた別のところにある。だからイメージとしての「技術の優劣」を当てはめることからして意味がないのだが。
ウィリアムズ開発の電力貯蔵機構をポルシェとアウディが採用
ここで、アウディとトヨタが「ル・マン プロトタイプ(LMP)」という車両規定に沿って開発し、実戦投入したマシンについて簡単に紹介しておこう。
優勝したアウディの「R18 e-tron クワトロ」は、アウディにとっては1999年以来ずっと開発と実戦を続けてきたLMPマシンの第5世代にあたる。
エンジン排気量の規定が2011年から「ディーゼルエンジンは3.7リットル」に縮小され、コックピット(運転席)が屋根とガラスで覆われた「クローズドボディ」が求められているのに対応した新設計車両であり、2011年も優勝。それも参戦した3台中2台が3分の1も経過しないうちに脱落し、同じディーゼルエンジン搭載プロトタイプであるプジョーの3車に包囲される状況になりながらも振り切って勝つ、というシビアな戦いを経験している。