ドイツが5月19日から導入したユーロ圏国債などの空売り規制(ネイキッドショート禁止)をきっかけに、世界の金融市場で投資マネーのリスク回避(risk aversion)志向が急速に強まることになった。20日の欧米市場では、実際にリスクポジションを圧縮する動き(risk reduction)が加速し、同時に、金融市場の流動性の問題も含め、先行き不透明感が一層強まったユーロ圏から米国へと、資金をシフトする動きが強まった。

 世界の投資マネーによるリスクテイク状況のインディケーターとも見ることができる米主要株価指数は急落。ニューヨークダウ工業株30種平均は前日比▲376.36ドルで、今年最大の下げ幅を記録しつつ、3日続落。終値は10068.01ドルになった。前日比▲200ドルを超える下げ幅になったのは、5月に入って3回目。▲376.36ドルという下げ幅は、2009年2月10日(▲381.99ドル)以来ということになる。

 また、いまの為替市場は基本的に、(1)「米国株本位制」とでも呼ぶべき性格を帯びている。米国株が大きく下げてリスクテイクの能力および意志が弱まると、円に代表される「逃避通貨」へと、資金が流入しやすくなる。20日の欧米市場では、各種通貨に対して円が買われる中で、ドル/円相場も円高に動き、一時88.95円をつけた。

 さらに、(2)ユーロの過大評価是正という大きな流れが加わっている。ユーロ圏が財政危機・信用不安から脱出するためには「独仏も含む統合参加各国の財政緊縮強化+ユーロ安による景気浮揚」の組み合わせが不可欠。さらに、欧州中央銀行(ECB)の金融緩和が長期化せざるを得ないことや、ユーロ圏内の相対的に格付けが低い国の国債を買い入れることによるECBのバランスシート劣化と信認低下懸念などが加わっており、ユーロは対ドルで1ユーロ=1.2ドルを割り込んでいくと予想される(5月17日作成「トリシェECB総裁の『言い訳』」参照)。

 ユーロの対ドル相場は、5月19日に1ユーロ=1.2143ドルまで下げた後、スイス国立銀行(SNB)がユーロ買いスイスフラン売り介入を実施したとの観測が断続的に流れる中で、ECBによるユーロ買い介入への警戒感が市場に出てきたことを材料にショートカバーが入り、1.22~1.25ドル台でもみ合いになっている。しかし対円では、20日の欧米市場で109.47円を記録。5月6日に記録した110.49円を下回って、2001年11月以来のユーロ安水準になった。上記(1)と(2)の流れが組み合わさった結果、このような動きになったと言えるだろう。

 欧米の債券市場では、ドイツや米国の国債が、リスク回避志向の強まりを反映した「質への逃避」で、急速に買い進まれている。20日の取引では、ドイツの2年債利回りが0.37%、10年債利回りが2.66%と、いずれも過去最低水準まで低下する場面があった(ロイター)。米国では2年債利回りが一時0.70%前後まで低下し、10年債利回りは昨年11月30日以来の水準である3.19%まで低下する場面があった。