戦後最大の国難となった東日本大震災から、あっという間に1年余りが過ぎた。あのような未曽有の国家非常事態に際しては、いかに最小限の被害で国民を守るかが最大の課題であり、その視点からのわが国の体制見直しが不可欠である。その最たるものの1つが、「国民保護法」と称される法律ではなかろうか。
東日本大震災で発動されなかった「国民保護法」
国防あるいは安全保障に対する関心が低いといわれるわが国でも、国民保護法(正式には、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」)が存在することは、少なからず認識されているであろう。
この法律は、武力攻撃事態(有事)等において国民を保護することを目的に作られた法律である。その中では、「国、地方公共団体等の責務、国民の協力、住民の避難に関する措置、避難住民等の救護に関する措置、武力攻撃災害への対処に関する措置その他の必要な事項」が定められている。
195か条の条文および附則から構成された膨大なもので、国民保護の措置とその手続きがこと細かに規定され、「・・・国全体として万全の態勢を整備し、・・・国民の保護のための措置を的確かつ迅速に実施する」とされている。
国防の当事者である国民は、有事等に自分がどのような仕組みで守られるようになっているのか、自分は何をしなければならないのか、一度はこの法律を読んで、じっくり考えてみることも必要であろう。
もし、東日本大震災において本法律を発動し、国全体が一体となって対処するよう設計されているこのシステムを作動させておれば、もっと「的確かつ迅速に」国民保護ができたのではないかと思われるが、発動されることはなかった。なぜなのだろうか?
そう言う傍らで、国民保護システムの一環として整備された「Jアラート」は、4月13日の北朝鮮による弾道ミサイル発射に際して有効に機能しなかったのだが・・・。
なぜ「国民保護法」は発動されなかったのか?
実は、「国民保護法」は、有事法制の一環として作られ、その基本法的性格を有する「武力攻撃事態対処法」を中心に「捕虜取扱い法」、「国際人道法違反処罰法」などとともにワンセットになっている。
その「武力攻撃事態対処法」は、いわば有事における伝家の宝刀で、そう安々と抜くわけにはいかないものである。端的に言えば、東日本大震災は、「武力攻撃事態等」に該当しないので、「国民保護法」は発動されなかったというわけである。
しかし一方、「国民保護法」は、武力攻撃事態等にともなって発生する被害への対処について、次のような具体例を挙げている。
(1)放射性物質など(NBC)による汚染拡大への対処
(2)原子炉などによる被害の防止
(3)危険物質などに関する危険の防止
(4)感染症などへの対処
(5)生活関連物資などの価格の安定
(6)電気・ガス・水道、運送、通信・郵便などの供給途絶への対処
(7)石油コンビナートなどの被災にともなう災害への対処など