春は大掃除の季節。(え? そうなの)と異論のある方もいらっしゃるかもしれないが、セーヌ川の岸辺では少なくともそのようである。

 草や木が繁茂してしまう前の方が掃除はしやすく、また寒さがようやく和らいでくるこの時期なら人々も集まりやすい。

 おそらくそんな理由から、3月終わりの週末がセーヌ大掃除の日にあてられた。

セーヌ川源流の村でも大掃除が行われた(著者撮影、以下同)

 「Berges Seines(ベルジュ・セーヌ=セーヌ土手)」というこのイベントを企画したのは、「La Seine en Partage(ラ・セーヌ・アン・パルタージュ)」という全国規模のアソシエーション。政府関係の機関や大企業もスポンサーとして名を連ねている。

 今年このイベントに参加したのは、河の流域95の地方自治体。セーヌと言えば、まずはパリを思い浮かべるが、パリ市は参加していない。

 もっとも、大事な観光資源とも言えるパリのセーヌ川は、日々、市の清掃人たちによって掃除されているから、あえて大掃除の日を設ける必要はないとも言える。

 というわけで、参加したのはどちらかと言えば規模の小さな自治体で、周辺の住民や有志らがボランティアで清掃に取り組んだ。

セーヌ源流の家に暮らして60年近くになる、モニーク・ラマルシュさん

 人口53人の源流の村、Source Seine(ソース・セーヌ)もそのひとつ。朝9時半、村人たち20人ほどが、セーヌの源流にもっとも近い一軒家、モニーク・ラマルシュさんの家の庭に集まった。

 この日の目的は、家と自治体所有の敷地、と言っても、それはセーヌの源流部分の流域とほぼ同義だが、このエリアの徹底清掃。数十年間手つかずだったゴミの山を取り去るというものだ。

 ところで、現在86歳のラマルシュさんが、亡き夫とともにこの谷あいの一軒家に暮らし始めたのは1953年のこと。村の中心から2キロほど隔たった場所ゆえ、現在でも水道の設備はなく、70年代までは電気も通じてはいなかった。

 今でこそ、ゴミの収集車がここまで来てくれるが、モニークさんの記憶によれば、それが始まったのは1990年代に入ってから。以前は、ゴミ処理は自前で行わなければならなかった。