ニッケイ新聞 2012年3月28日、29日より
(上下2回にわたって掲載された記事をまとめて1つにしています)
当地で国民的人気を誇る漫画家マウリシオ・デ・ソウザさん(76)が2月末に刊行した『Turma de Monica Jovem』(モニカと仲間たち若者編、第43巻)に、故・手塚治虫氏の懐かしいキャラクター達が蘇った。
「緑の宝物(Tesouro Verde)」編の上巻で、鉄腕アトム、リボンの騎士、ジャングル大帝のレオがモニカ達と平和を求めてアマゾンで戦う物語だ。
84年、手塚氏が現国際交流基金サンパウロ事務所の文化専門家派遣を通じて来伯した際に、ソウザさんは初めて出会って意気投合し、「いつか一緒にアニメをつくろう」と約束を交していた。手塚氏が逝去して23年――共同制作の夢が今ようやく実を結んだ。
先月28日、ショッピングセンター・ノルチ内のサライバ書店で新刊発表記念サイン会が開かれ、会場は子供から大人まで多くのファンで賑わった。
ニッケイ新聞の取材にソウザさんは「まるで古くから知っている友人のようだった。言葉で言わなくても分かり合えた」と手塚氏と会った時のことを懐かしそうに語った。
手塚氏は日本漫画の先駆者であり、表現手法を確立して一時代を築いた“漫画の神様”だ。一方、ソウザさんも当地の草分けにして圧倒的な部数を誇る『モニカ』を作り出した。「お互いに抱えていた悩みや問題も良く似ていた」と話す。
1985年にソウザさんが同基金による招聘で訪日した際は、わざわざ手塚氏が成田空港まで出迎えた。「私たちは親交を深めながら、平和をテーマにした冒険映画制作という夢に向かっていた」という。
ところが、ソウザさんが再訪日を果たしたとき、手塚氏の体はすでに癌に侵され、衰弱していた。しかし、手塚氏は生き生きと作品や人生について語り「体がよくなったら一緒にアニメを作ろう」と約束を確かめ合ったが、ソウザさんが帰国して間もない89年2月に亡くなった。
2008年は日本移民百周年。「やるなら今だ。漫画で実現しよう」と決め、企画が始まった。二人の親交を知る手塚プロダクションは、初めて日本国外にキャラクター使用許可を出した。
環境破壊、保護の大切さを子ども向けに分かりやすく説く、学習漫画的な作品だ。ソウザさんは「最近の子供たちにも手塚作品を知ってもらいたい」と考えている。
手塚プロから送られてきたビデオ映像で、松谷孝征代表取締役社長は「『木も虫も、環境も地球も宇宙も全て生きている』が手塚の思想。環境問題に目を留めた作品に手塚も喜んでいる気がする」と感謝を述べた。
ソウザさんの娘マリナさん(27)は「父は昔から日本の漫画が大好きで、手塚さんのことは師匠と呼んでいた。今回の企画にむけて長い間頑張っていた」と作品の完成を喜んだ。