コンピューター技術の発達がもたらしたインターネットの世界は、先進諸国にとって、個人生活面、企業活動、さらには国全体の活動においてもはや欠かせないステージを提供している。

 また、メールやデータのやり取り、ウェブサイトへのアクセス、さらには商取引に至るまでインターネット空間利用は国境を越えて広がり、地球上のあらゆる場所との距離を一気に縮めている。

 しかし、インターネット普及は端末であるコンピューターを狙ったマルウエア(悪意を持って作られた不正ソフトウエア)の登場など、新たなジャンルの犯罪を生み出した。それが、個人レベルの金銭サギ的なものから、より組織的な特定のシステムを狙った大規模な攻撃、例えば政府省庁のサイトをダウンさせたり、重要企業(防衛産業のような)からデータを盗み取ったりといった、より組織的で高度なものに発展している。

「第5の戦場」と米中が規定するサイバー空間

 この状況に早くから危機感を持ち、「サイバー空間は陸、海、空、宇宙に次ぐ第5の戦場である」と規定してサイバー攻撃からの防御や反撃を国防の重要課題に位置づけたのが米国だ。

 2011年7月、米国防総省は初めて「サイバー戦略」を発表し、他国からサイバー攻撃を受けた場合、その内容や損害の程度によっては「ミサイルで反撃する」と、武力攻撃と同等の位置づけでサイバー攻撃に対処することを明らかにした。

 一方、しばしば米国から「サイバー攻撃の犯人」と非難されている中国も最近、人民解放軍の任務について「国家の海洋権益を擁護し、宇宙・電磁空間・インターネット空間における国家の安全保障利益を擁護する」(2010年版『中国の国防』)と規定しており、国防上サイバー戦を重視する立場を表明している。

 2008年版『中国の国防』でも、サイバー空間について米国同様に「第5の戦場」と記述するとともに、中国全土の7軍区に「電子戦団」(人民解放軍の「団」とは、1000人規模の連隊クラスの部隊を指す)を配置していることを明らかにしている。

サイバー戦が国家間紛争の様相を一変させる

 サイバー戦というと、何か大げさな話に聞こえる向きもあるかもしれない。我々が日常、気軽にアクセスし利用しているインターネットの世界では、コンピューターウイルスが徘徊し、しばしばパソコンに感染するといったことはユーザーがよく経験することだし、スパムメールの氾濫も身近に知るところだろう。ちょっとした「いたずら心」や意図的な金銭がらみの犯罪として、こうした事象が起きているだろうと誰しもが考えることだ。

 しかし、いまやインターネットでつながった端末やシステムは個人ユーザーから、大企業、社会的事業インフラ、政府機関にまで及び、先進国であればあるほど、政治経済活動面でも行政執行(その中には、軍事行動も含まれる)の面に至るまでもその依存度が高い。