18・19 日に開催される日銀金融政策決定会合を前に、その決定内容についての観測報道が徐々に増えてきた。日銀短観12月調査の内容が非常に悪かったこと(特に設備・雇用の過剰感の強まり)、日銀自身が景気の判断および今後の景気シナリオの下方修正を余儀なくされることと政策運営との整合性の問題、為替相場の円高急進行リスクが引き続き意識されること、企業金融のタイト化が引き続き顕著であることなどを背景に、日銀が今回の会合を追加策なしで乗り切るのは難しいという雰囲気が強まっている。日銀幹部からは「ここまで経済が悪いのに何もしないわけにはいかない」との声が出ている(12月16日付毎日新聞)。
ロイターは15日午後、「短観受け景気下振れを一段と警戒、『あらゆる選択肢排除せず』の声」と題した日銀関連記事を配信した。
同記事によると、日銀は短観について「予想通り悪かった」(幹部)と比較的冷静に受け止めているが、10月末の展望レポートで示した景気回復シナリオはもはや修正が避けられないとの見方が大勢で、政策委員はこれまで以上に「あらゆる選択肢を排除しない」との姿勢を鮮明にしている、という。「市場では追加利下げ観測が浮上しているが、この局面では市場の目詰まり解消と流動性供給で対応するのが本筋との意見も日銀内には根強い。将来的な利下げの可能性は否定しないものの、『これまで打ってきた対策の効果を見極めたい』(幹部)といった声もある」。追加緩和策の具体的な内容については、「この(15・16日の米FOMCの)結果が株や為替に与える影響や経済・物価情勢、金融市場の動向等をギリギリまで見極めながら、追加対策の是非について最終判断する見通しだ」とした。
日経新聞は16日朝刊で、「日銀、資金供給で追加策 次回決定会合 企業の調達難受け」と題した記事を掲載した。
同記事は、日銀が「市場への資金供給拡大のための追加策を打ち出す検討に入った」とした上で、具体案として、(1)CPの買い取り、(2)長期国債購入の増額、(3)日銀貸し出しなどの担保として受け入れる資産の範囲拡大など、「幅広い案が浮上している」とした。一方、市場の一部で浮上している追加利下げ観測については、「日銀内では前回10月末の利下げの効果を見極めたいとの慎重論が根強い。日銀は利下げの是非については、15、16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利下げが有力視されているFRBの動向や、金融・為替市場の動きをギリギリまで見極めて判断する方針だ」とした。
朝日新聞は16日朝刊で、「日銀、中小支援を検討 証券購入し資金供給」と題した記事を掲載した。
同記事は、日銀が「中小企業向けの資金繰り支援策に乗り出す方向で検討に入った」とした上で、「検討対象となっているのが、中小企業向けの貸し出し債権や売り掛け債権を裏付けにした証券の買い取り。資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)や資産担保証券(ABS)などがあり、2003年にも導入したことがある。日銀が買い取ることで、中小企業向けの資金融通が活発化することが期待される」とした。さらに同記事は、「金融機関への資金供給を目的に、毎月1兆2000億円買い入れている長期国債の増額も検討課題にのぼっている」と伝えた。一方、利下げについては、白川総裁のコメントを引用して「慎重」と記述。政府が日銀に求めているCP買い取りについては、「日銀は慎重に検討する構えだ」とした。
ロイターや日経の報道にある、米FOMCの結果とその後の為替相場などの動向がカギになるという点は、筆者の見方と基本的に同じである。ただし筆者は、あるとすればストレートな利下げではなく、金融市場調節方針に「なお書き」を付加する形での、超過準備付利金利0.1%を下限とする「プラス金利付き量的緩和」だろうと予想している(「日銀短観、全面後退」ご参照)。
CPの買い取りという企業金融の「直接支援」策については、日銀は引き続き慎重な構えのようである。フジサンケイビジネスアイは16日、「日銀内には『リスク性の金融資産の直接購入は中央銀行の役割ではない』(幹部)と慎重意見が根強い」と伝えている。政策投資銀行が2兆円のCP買い入れを行う方向になっていることから、中央銀行の本来あるべき姿から外れてまで、あえて「間口」を2つにする意味合いがどこまであるか、といった議論も成り立つだろう。それよりは、朝日新聞が伝えている資産担保証券買い入れを復活する方が、その実効性はともかく、早期に実行できるという点で、話が早いように思われる(アナウンスメント効果もある程度は期待できる)。
また、長期国債買い入れの増額問題についての筆者の見解は、すでにリポートで述べた通りである。「すきま」が大きいことから物理的にはいつでも可能で、流動性供給を強化する上で(調節運営上の都合から)望ましい施策だ、という立論も可能である。
18・19 日の日銀会合については、このように様々な観測が浮上しているわけだが、債券市場参加者としては、ディテールにあまりこだわる必要はないように思われる。
金融政策の方向感は、「横」か「下」であることに、全く変わりはない。しかも、筆者が掲げている、「20年バブル」が崩壊した後の6つの重要ポイントのうち6番目にあるように、危機対応「政策総動員」からの「出口」までの距離は、どんどん長くなっている。すなわち、日銀を含む各国の中央銀行が、利上げに動くことのできる時期はずいぶん先になったということである。
「金融緩和の継続および長期化」という視点からも、長期金利には一段の低下余地があると、筆者は引き続き考えている。