AsiaX(アジアエックス) Vol.204(2012年01月16日発行)より
物流の担い手が船だったころの19世紀、マレー・アーキぺラゴと呼ばれていたアジア~オーストラリア間のインド洋から太平洋の西にかけて、トンカン(TongKang)という木製のカラフルな船が無数に行き来していました。
これは20トンほどの荷物を積載できる程度の小船で、特徴としては前と後ろの舳の形が同じで全体的に丸みを帯びたものです。
櫂や竿で漕いだり、大型船とロープで連結して牽引していました。長距離の移動には向きませんが、大型船から埠頭への荷物運搬、あるいは多島海の浅い海、海から川への移動には小回りのきく便利な船でした。
トンカンはこの地域だけではなく、地中海から紅海、南インド、そして南シナ海まで広い海域にわたって活躍していたと言われます。
シンガポール川の主役、貨物船は古代ローマから
トンカンという名前はマレー語で「荷物を運ぶ各種船」を意味します。貿易の街として繁栄したシンガポールで、港に着いた荷物、特に木材や花崗岩などの重い建築資材を各地に運んでいました。そのころシンガポール川は島の中心を貫く大動脈で、交通の要所、物流の中心でした。
川沿いには倉庫がずらりと並び、海外から輸入した生活物資、スパイス等の食材といったさまざまなモノが運び込まれてこのあたりに保管され、さらに陸路で島内各地に運ばれたり、また大型船に積み込まれて他の国へ運ばれていきました。
トンカンはシンガポール開拓史を語る上で、大変重要な要素であると言えます。
この小型船の船体には赤、青、黄色の極彩色のペンキが塗られ、そのデザインはなかなかエキゾティックなものでした。
トンカンの出自を辿ると、ヨーロッパの影響が見られるインドのマドラス海岸で使用されていたドーニ(Dhonis)に原型を見ることができます。
ただドーニの場合は漁船として使われていたことが多かったそうです。モルディブの多島海にもたくさんのドーニがさまざまな目的で使われていました。
さらに遡るとドーニの原型はアラブ地域のドウ(Dhow)と呼ばれていた船で、これはもともと古代ローマや古代ギリシャの時代に地中海でも活躍していた船なのです。