昨年末以来、イランの核開発問題を巡って欧米諸国が経済制裁の動きを強める中、イランが原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の封鎖について言及し揺さ振りをかけている。

 産油国イランにとって同海峡の封鎖は、自分で自分の首を絞めることになるので、その選択肢はないと考えるのが大方の分別ではあるが、上記制裁がイラン原油の禁輸措置であるなら、その結果はイランにとって同じことになる。

 とすれば、追い詰められたイランが苦肉の策としてそのような暴挙に出ることもあながち否定できない。そうなって一番困るのは、中東原油への依存度が極めて高い我が国であり、対岸の火事と傍観してはいられない状況にある。

 要は、ことが起こってからどうするかということより、ことが起こらないようにするにはどうすべきかがより重要である。

ホルムズ海峡の状況

ホルムズ海峡

 イラン革命防衛隊の指揮官が「ホルムズ海峡を封鎖するのは、1杯の水を飲むよりたやすい」と言ったと伝えられているが、実際はいかがなものだろうか?

 米国は、ホルムズ海峡の内側のペルシャ湾と外側のオマーン湾およびアラビア海を含むこの方面に空母グループを含む米中央軍(第5艦隊)を展開・配備している。

 通常は1隻の空母が6カ月交代で配備されているが、1月中旬現在、この地域には2隻の空母が存在する。

 昨年9月初旬に配置に就いた原子力空母CVN-74ステニス(今年3月まで配備予定)と1月9日に到着したCVN-70ビンソンである。加えてCVN-72リンカーンが1月10日にタイを出港し19日に同方面に到着、ステニスと交代すると見られている。

 ただしリンカーンは、今年から延命のための長期修理が計画されており、今後の予定は不明である。米国防総省筋によれば、この方面への空母グループの増勢は、地域戦闘指揮官の要請により万全な態勢を取るためのものであり、何ら異常なものではないとしているが、明らかに逼迫したホルムズ海峡の状況を勘案したイランへの対応であろう。

 このような現状を踏まえ、米国とイランの正規軍レベルでの兵力組成を比較すれば、イランによる同海峡の封鎖は能力的に困難であろう。

 しかしながら、ホルムズ海峡を全面的に封鎖するに至らないまでも地対艦ミサイルや機雷を使用して、あるいは高速艇や小型潜水艦などにより一時的あるいは局地的に通航船舶の安全を阻害することは十分可能だと考えられる。

 いわゆる非対称な戦いである。特にイランによる機雷の使用はイラン・イラク戦争における先例があり、その蓋然性を否めない。