日銀は4月30日午後、「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の基本的見解を公表した。景気の先行き見通しとリスク要因や、金融政策の運営方針に関して、図表1のような基本認識が示された。世界経済について日銀は冒頭で、「危機以前の状態に戻る過程にあるわけではない」という認識を明記した。正論である。その理由としては、(1)世界経済構造の大きな変化、(2)先進国における公的債務残高の未曾有の急増、(3)金融の規制・監督の議論の進展が指摘された。さらに日本については、「少子高齢化・人口減少などを背景とした国内需要の減少が見込まれる中、実質成長率や生産性を引き上げていくことが、重要な課題となっている」という問題意識が明記された。追加緩和に向けた検討指示(後述)につながる一文である。

図表1: 日銀「展望レポート」における、景気の先行き見通し、景気の上振れ・上振れ要因、金融政策運営方針についての記述比較
  2009年4月30日 2009年10月30日 2010年4月30日
景気の先行き見通し 先行き2009年度から2010年度を展望すると、わが国経済は、海外経済や国際金融資本市場の動向に大きく依存した展開を辿る可能性が高い。

2009年度前半は、国内民間需要は引き続き弱まっていく一方で、内外の在庫調整の進捗を背景に、輸出・生産の減少に歯止めがかかっていくと予想される。このため、わが国経済は、悪化のテンポが徐々に和らぎ、次第に下げ止まりに向かうとみられる。

2009年度後半以降は、各国における各種政策が効果を顕わすとともに、2000年代央にかけて蓄積された金融や実体経済における様々な過剰の調整も徐々に進捗するとみられるため、国際金融資本市場が落ち着きを取り戻し、海外経済も持ち直していくと考えられる。

わが国経済も、こうした海外経済や国際金融資本市場の回復に加え、金融システム面での対策や財政・金融政策の効果もあって、緩やかに持ち直し、見通し期間の後半には、潜在成長率を上回る成長に復帰していく姿が想定される。
先行き2009年度後半から2011年度を展望すると、わが国経済は、他の先進国と同様、世界経済の動向に引き続き大きく左右される展開を辿る可能性が高い。

現在、わが国の景気は持ち直しつつあり、2009年度後半は、海外経済の改善と経済対策の効果を背景に、景気は持ち直していくとみられる。

2010年度もこの傾向は維持されるものの、世界経済の回復のペースが緩やかなものに止まるとみられること、国内においても需要刺激策の効果が減衰する中で、雇用・賃金面の調整圧力が残存することなどから、年度半ば頃までは、わが国経済の持ち直しのペースも緩やかなものとなる可能性が高い。

その後は、米欧におけるバランスシート調整が相応に進捗するとともに、わが国においても、輸出を起点とする企業部門の好転が家計部門に波及してくるとみられる。このため、2011年度には、わが国の成長率は、潜在成長率を明確に上回るペースまで高まる見通しである。
先行き2010年度から2011年度を展望すると、わが国経済は回復傾向を辿るとみられる。

耐久消費財に対する各種対策は、その需要刺激効果が次第に薄れていき、2010年度中には完了すると見込まれる。もっとも、新興国・資源国の力強い成長を背景に輸出は増加を続けるほか、企業収益の回復に伴い設備投資も持ち直す可能性が高い。また、企業活動が活発化するにつれて、雇用・所得環境の改善も次第に明確化していくため、個人消費や住宅投資の伸び率は高まっていくと考えられる。

これらを踏まえると、2010年度のわが国の成長率は、潜在成長率を上回る水準となると見込まれ、2011年度には更に高まる見通しである。
上振れ

下振れ要因
(1)国際的な金融と実体経済の負の相乗作用の帰趨

(2)世界各国で取り組んでいる各種政策の影響

(3)企業の中長期的な成長期待の動向

(4)国内の金融環境の動向
(1)米欧におけるバランスシート調整の帰趨

(2)新興国・資源国経済の動向

(3)世界各国で取り組んでいる各種政策の今後の展開

(4)企業の中長期的な成長期待の動向
(1)新興国・資源国経済の動向

(2)先進国経済の動向

(3)国際金融面での様々な動き

(4)企業の中長期的な成長期待の動向
政策運営方針 日本銀行としては、当面、景気・物価の下振れリスクを意識しつつ、わが国経済が物価安定のもとでの持続的成長経路へ復帰していくため、中央銀行として最大限の貢献を行っていく方針である。 金融政策運営に当たっては、きわめて緩和的な金融環境を維持していく方針である。日本銀行としては、わが国経済が物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰していくことを粘り強く支援していく考えである。 金融政策運営に当たっては、きわめて緩和的な金融環境を維持していく考えである。日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することがきわめて重要な課題であると認識している。そのために、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針である。

出所:日銀