ギリシャ財政危機、新興国・資源国の利上げ開始、「ボルカー・ルール」立法化の動きなど、自国の内外で様々なリスク要因が浮上しているにもかかわらず、ニューヨークダウ工業株30種平均は4月26日まで6日続伸し、2008年9月19日以来の高値である1万1205.03ドルとなった。新興国の経済成長のメリットを享受した企業業績の改善も好材料になっていた。
ところが、4月27日の取引では、S&Pがギリシャとポルトガルの国債を格下げしたことが急速な株式売り戻しの材料になり、ニューヨークダウは前日比▲213.04ドルの急落となった。200ドルを超える下落幅を記録したのは2月4日(▲268.37ドル)以来で、今年に入ってからは4回目のことである。また、この日の下落によって、6日間で計186.37ドル上昇していた分が帳消しになった。
「リーマン・ショック」が発生する直前の株価水準(2008年9月12日終値である11421.99ドル)に迫ってきたニューヨークダウだが、この水準は近そうに見えて、意外に遠い。
4月27日に発表された米4月の消費者信頼感指数は57.9(前月比+5.6ポイント)となり、市場予想中心を上回った。「リーマン・ショック」が発生した2008年9月以来の高水準ということになる。ただし、2008年9月の指数は61.4なので、当時の水準を完全に回復したというわけではない。
内訳を見ると、現状が28.6(前月比+3.4ポイント)で、2009年5月以来の水準にとどまっている。一方、期待は77.4(同+7.0ポイント)で、2007年10月以来の水準まで上昇している。家計を取り巻く足元の現実の経済状況はまだ「リーマン・ショック」前の水準には程遠いものの、期待感についてはショック発生時よりもかなり前の水準まで膨らんでいることがうかがえる。そして、そうした期待先行のマインド改善が見られてもなお、両者を総合した指数は、「リーマン・ショック」が発生した月の水準に達していないのである。
危機的だった金融市場の状況が、各国の政策当局による政策総動員の結果、現在ではかなりの程度安定化してきていることを踏まえると、「リーマン・ショック」発生という「急性症状」による下落分が打ち消されて、ショック発生前後の水準まで、ニューヨークダウが期待先行色の強い展開の中でいずれ上昇していくだろうと想定すること自体に、そう大きな違和感はない。しかし、さらにその先のエリアまでダウが上昇していくとすれば、一種の矛盾が確実に膨らんでいかざるを得ない。
米国株が上昇を続ければ、そのこと自体が市場全般で米国の景気回復が力強さを増していくシグナルと受け止められて、米連邦準備理事会(FRB)による早い段階での利上げ観測や不動産担保証券(MBS)売却観測が勢いを増すことになる。それは、ほどほどの強さの景気回復と、FRBによる超金融緩和状態の共存という、「ゴルディロックス」的とでも呼ぶことのできる、株価にとって実に都合の良い状態が続くことを前提に形成されてきた流動性相場を、根本から揺さぶることになる。