鳩山由紀夫政権の支持率低下が止まらない。

 首相の政治資金問題に加え、米軍普天間基地の移転問題での首相や閣僚の迷走発言、後手後手の対応ぶりが足を引っ張っている。それに加えて、「政治主導」「脱官僚依存」を掲げた民主党の政策決定システムが機能不全に陥っていることも見逃せない。自民党政権時代との対比を通じて、稚拙な民主党の政策決定過程を検証する。(敬称略)

政策の根拠はマニフェストだけ?

子ども手当支給額の根拠を示せず・・・

 「子ども手当の根拠を示せ」──。民主党が看板政策として掲げる子ども手当の法律審議で、厚生労働相の長妻昭は野党から繰り返し質問を受けた。民主党の衆院選マニフェスト(政権公約)に従うと、子ども手当は2010年度に半額の1万3000円を支給し、2011年度から全額支給する。

 長妻は「食費など子育てに必要な基礎費用の相当部分をカバーできる」と述べた程度。満額支給の場合は5兆3000億円という巨費を投じるにもかかわらず、「マニフェストで示した」という説明以外に支給額の根拠を示すことができなかった。

 そもそも、長妻が「国民からの命令書」と崇めるマニフェストの根拠も怪しい。

 民主党は2005年の衆院選のマニフェストで「次世代育成を進める一環」として、1万6000円の子ども手当の創設を打ち出した。2007年の参院選マニフェストでは、一気に2万6000円に増額した。当時の党代表だった小沢一郎が「5兆~6兆円規模でパンチのある政策を出してほしい」と党のスタッフに指示したことで、支給額が引き上げられたのだ。そんな数字に明確な根拠があろうはずもない。

 高校授業料無償化も、また然り。2010年度から高校に通う生徒の家庭に対して11万8800円を減免したが、教育上の効果や支給額の根拠は明らかになっていない。「マニフェストに沿った」という説明だけが続くお寒い状況だ。

 こうした無様な現象がなぜ起きているのか。自民党政権時代と比べることで、答えは見えてくる。

 たとえ公約に盛り込まれた目玉政策であれ、自民党政権時代は、各省に設置した審議会で政策目的や効果を議論した上で、自民党政務調査会の部会での審議も経なければ、正式な政策として認められなかった。公の場での議論を通じて政策の中身をブラッシュアップする枠組みがあったのだ。

財政制度等審議会では、与党や各省からの要求について妥当性があるのか慎重に検討
(撮影・前田せいめい)

 与党や各省から予算要求を受ける財務省でも、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の議論を通じて政策の有用性などを問うた。首相が議長を務める経済財政諮問会議と連携し、歳出膨張を防ぐこともあった。

 もちろん、役所の審議会は「役所の隠れ蓑」「官僚がお墨付きを得るための偽装の場」として利用されていたことも事実だ。自民党政調の議論も業界団体との利害調整や利益誘導に傾く時も多かった。また省庁同士の主張や業界団体の利害を反映させた結果、根拠が薄弱な政策が立案されることも少なくなかった。

 それでも、様々な場面で大所高所に立った議論があり、結果的にはガス抜きにしかならないにしろ、反対派が公式の場で意見を表明する機会も与えられていた。その過程で政策の目的や課題、必要性、根拠が曲がりなりにも検証されていたし、報道を通じて国民が政策形成過程を垣間見ることもできた。