戦後日本は、軍事大国を目指すことなく、軽武装・経済重視で歩んできた。この路線を担保する手段として日米同盟を結び、米国の核の傘の下で冷戦期を大禍なく過ごしてきた。

 ところが、1990年代に冷戦が終結すると、米国の軍事・外交戦略は大きく変化した。特に2001年から米国は冷戦型の軍事力の配置の見直しに着手、その一環として在日米軍の再編があり、2005年に日米両政府は自衛隊と在日米軍の連携強化と基地負担の軽減で合意した。揉めに揉めている普天間飛行場の移設問題は、その時からの持ち越し案件だ。

徳之島で基地移設反対集会、約1万5000人が参加

大規模反対集会が開催された後に、徳之島に基地移設を打診しようとしている。政府の対応はあまりにもお粗末〔AFPBB News

 国際関係の大きな転換という意味から言えば、民主党の目指す「主体的な外交戦略を構築し、緊密で対等な日米同盟関係をつくる」というマニフェストは、妥当なものだ。封印してはいるものの鳩山由紀夫首相の持論である在日米軍の整理・縮小を目指した「常時駐留なき安保」も、大きな方向性は間違っていない。

 しかし、このような長期的課題を解決していく一歩として普天間飛行場の移設問題を捉えるにしては、それを実現する戦術や手法は「経験不足」では済まされない稚拙さが目立つ。

インテリジェンスサイクルの機能不全

 重要政策を決定する際には、「インテリジェンスサイクル」が機能していなくてはならない。この場合のインテリジェンスサイクルとは、首相や官房長官が重要方針や外交政策を決定する際に、判断に必要な情報を集め、知識を構築するための手法を言う。

 インテリジェンスサイクルが機能するためには、そもそも決定権者がどんな情報を必要としているのか、何を知りたいのか──が明確になっていなければならない。その要求を満たすために、インテリジェンス機関があらゆる手段で関連情報を収集・調査し、それを分析・加工して要求に沿ったインテリジェンスとして提供する。これに対し再度決定権者が要求を出し、精度を高めていくという作業の繰り返しだ。

もはや「スマン」では済まん状況に・・・

 普天間問題を例に取れば、鳩山首相が早い段階で「腹案」を政府部内に伝え、それを実現するために必要な高度な情報を各方面から集め、集約された情報をさらに精査し判断材料として、具体的な方針や計画を形成するのが、あるべき筋道だ。

 しかし、日々のニュースから伝わってくる場当たり的な対応を見る限り、インテリジェンスサイクルが機能しているとは思えない。

 これまで日本は、安全保障の多くを米国に委ねた上に、日本独自の政策判断を行うためのインテリジェンス体制が脆弱だった。それ故に、「対米追随外交」とか「自主外交が無い」と言われてきた。これを転換しなければならないのである。