スイスで生まれ育った世界的に有名な画家パウル・クレー(1940年没)は、日本にもファンが多い。クレーの展覧会が幾度となく開かれていて、今年5月末~7月末にも東京国立近代美術館で「パウル・クレー ― おわらないアトリエ」が開催された。

 同展でも展示されたように、クレーは、ほかの画家にはない自分だけの特別な技法をいくつか生み出した。その1つが、絵を切ってしまうという普通では考えられない非常に大胆な試みだ。

「絵のパズルが1つになる」謎

 写真を見てほしい。後方に赤と白のドームが見える絵と、茶や青が重なる砂漠を表現した絵は、どうやってみても別々に描かれた絵にしか見えない。色の使い方が違うし作品名も違う。

 しかし、実は2つはパズルのピースのようなもので、元は1枚の絵だった。2つではなく、3つ、4つと違う作品にした場合もあった。

 多作なクレーは、こういった絵もたくさん残した。とはいえ、こだわっていた自身による緻密な作品リストには記録していない。

クレー独自の技法「絵を切る」。2つは本来1枚だった。切り口や加筆箇所が分かりにくく、判断が極めて難しい。奥田修氏はこの秘密を発見した。(写真提供Zentrum Paul Klee)

 切った形跡をほとんど残さず、この技法を誰にも打ち明けなかったから、元は1枚の絵だったというのは謎だった。いや、謎に気づいた人さえいなかったと言った方が正しいだろう。

 ところが、この謎を発見した人物が1人いた。日本人の奥田修だ(文中敬称略)。

 奥田は、クレーの故郷であるスイスの首都ベルンに住んでいる。美術館ツェントルム・パウル・クレーで、クレーの研究に勤しむ毎日だ。

 「バラバラに見たのでは分からないが、作品を何枚もためて見ていくうちに段々と把握できる」。奥田は判断が極めて難しいこの謎を解き明かして、ほかの研究者らをうならせた。

 謎解きは、まだ終わっていない。何千にも上るクレーの作品からは、今でも絵のパズルは次から次へと出てくるそうだ。