トヨタ自動車の大量リコール問題への後手後手の対応を見るにつけ、企業にとっての「危機管理」の重要性を改めて思い知らされる。
危機管理の鉄則は、「前兆となる小さなトラブルの原因を分析」し「改善し続けること」にある。それができなければ、危機は雪だるまのように膨らみ、最悪の結果を招くことになる。
阪神大震災など契機に「危機対応」部署の設置進む
阪神・淡路大震災(1995年1月17日)、西暦2000年問題(Y2K)、米同時多発テロ(2001年9月11日)などを経て、日本でも企業や行政機関に危機管理の専門部署が設置されるようになった。担当者の仕事の中心は、様々なリスクを想定・評価して、それに対する予防、緊急対応、復旧などを行うことだ。
具体的には、想定した危機・リスクの損害額に発生確率を掛け合わせて対応優先順位を決め、費用対効果を考えてそれぞれの措置を講じる。その損害額は、実際の被害額に加え、テレビ・新聞、インターネット等のメディアを通じて流される情報によって企業のブランドや信頼度が低下するなどのイメージ損害も考慮しなければならない。
また、危機対応措置を発動する・しないの判断も重要になる。危機対応すると仕事の効率が著しく低下するなどのデメリットが生じる場合は、措置を行わない場合の損害とのトレードオフを常に考慮しなければならない。あえて対応措置を取らないという選択もあり得るだろう。
前提が間違っていれば、危機は乗り切れない
ただ、近年、発生確率を推定することが困難な危機も増えている。火災や地震など、過去に膨大なデータのあるものは比較的、推定が容易だ。しかし、社会的、人的要因の強い事象、それも新しい危機についての発生確率予測は難しい。
その典型的な例の1つが、1998年の米ヘッジファンドLTCM(Long-Term Capital Management)の巨額損失事件だ。
LTCMは、1997年に金融工学でノーベル経済学賞を受賞したマイロン・ショールズとロバート・マートンや、連邦準備制度理事会(FRB)元副議長のデビッド・マリンズらが共同経営者に名を連ね、「ドリームチームの運用」として著名人や大学からも多額の投資資金を集めた。1998年初頭までは最も成功したファンドと考えられていたが、ロシア政府のデフォルト宣言によって空前の規模の損失を出し、事実上の倒産に追い込まれた。