金融危機震源の米国に比べれば、日本経済の傷は浅いはずなのに、東京株式市場の株価が超低空飛行を続けている。9~11月の日経平均株価の下落率は33.7%に達し、ニューヨーク市場ダウ平均株価の23.3%よりも深刻だ。株価純資産倍率(PBR)は理論的には1を切らないはずだが、トヨタ自動車やソニー、メガバンクなど日本を代表する優良銘柄が軒並み「1割れ」を起こしている。

 PBR=株価÷1株当たり純資産
1株当たり純資産=株主資本(会社の解散価値)÷発行済み株式数

 「PBR1割れ」の会社を解散して資産をすべて処分すれば、株主は株価以上の利益を手にできる。換言すれば、PBR1が株価の理論的な底値になるとされる。

輸出銘柄が軒並み…異常事態の株式市場

 ところが、東証1部上場1705社の11月末のPBR(連結ベース)は0.7にとどまり、1をはるかに下回る。月末ベースでは9月から3カ月連続で1割れとなり、異常事態が続いている。

 業種別に見ると、電気・ガスや大手不動産など内需関連の株価はPBR1超で健闘するものの、自動車や電機といった輸出銘柄は軒並み「会社解散価値」に届いていない。

 仮に、計算式の分母となる「1株当たり純資産」が実態以上に水膨れしていれば、PBRは小さく出てくる。しかし、大手銀行の幹部は「バブル崩壊後のデフレ下で、日本企業は血のにじむようなバランスシート調整を着実に進めてきた。このため、米欧に比べて資産評価は実態に近く、PBRも信憑性が高い。PBR1割れの優良銘柄は絶対に “買い” のはずだ」と指摘する。

 永田町でもPBRに関心が集まり、自民党の有力筋は「首相官邸に知恵と度胸があれば、PBR1割れの優良銘柄で組成するファンドをつくり、政府・日銀で買い上げるのが最良の景気対策になる」と断言する。

 しかし、公的年金や個人投資家の一部を除けば、日本株には買いが入らない。兜町の関係者は「外国人が売ると、横並び意識の強い日本の機関投資家も追随する。唯一買い意欲のあるファンド勢も、顧客からの解約ラッシュでカネがない」とつぶやく。金融庁の幹部も「以前なら簡易保険が出動して株価を支えたが、民営化後のかんぽ生命保険はリスクを取らない」と話す。

 四半期ごとの決算・配当が重圧となり、機関投資家の「時間軸」が短くなってしまった。大手銀行は月次で運用成績を評価するようになり、運用セクションの担当者は「株式の長期保有ができず、超低金利覚悟で国債を買い漁るしかない」と明かす。市場では思考の短絡化が加速している。