片や堅実を旨とする三菱グループの中核企業。もう片方は自由闊達を企業風土とする非上場の実力企業である。統合がそう簡単でないことは当初から分かりきっていた。だが、将来を見据え、両社のトップはてっきりそうした困難はすべて飲み込む「覚悟」を決めたのだと思っていた。どうやらそうではなかったようだ。
最大の争点だった統合比率で双方の主張が激しく対立。サントリーの株式の約9割を保有する「創業家」が統合新会社の経営にどう関与していくかという問題についても、溝が埋まらなかったという。「今さらなぜ?」と疑問に思った人も多かったのではなかろうか。
「両社の間で認識が一致しなかった。上場会社として経営の独立性、透明性をしっかりと担保し、顧客、株主、従業員から理解、賛同してもらうことができないと考えた」(加藤壹康キリン社長)
「オーナー会社の良さはパブリックカンパニー(公開会社)にはなかなか理解できない。サントリーの111年の歴史、創業家と会社の関わりを見てくれれば、われわれが透明で独立性ある経営をしてきたことを分かってもらえると思ったが・・・」(佐治信忠サントリー社長)
統合交渉の打ち切りを受け両社長がそれぞれ開いた記者会見は、ともに無念さがにじんだ。
両社の経営統合が実現すると、国内ビール類市場に占める新会社のシェアは5割程度に高まるはずだった。このため、公正取引委員会がこの統合に対しどのような独占禁止法上の判断を下すかが注目されていたが、交渉決裂によりその機会もなくなった。
今後も予想される超大型企業同士の統合。これに対する公取委としての公式見解がうかがえるまたとない機会だっただけに、その意味でも今回の交渉決裂は残念である。

