長崎県佐世保市の大型テーマパーク・ハウステンボス(HTB)の経営再建問題が正念場を迎えている。2009年秋から支援に手を挙げていた大手旅行社のエイチ・アイ・エス(HIS)は資金不足の不安があり、前原誠司国交相が企業再生支援機構の活用案を口にした。ただ、機構の支援が実現しても再生の可否は不透明で、残された時間もわずかだ。(文中敬称略)

地元自治体も、HISも国の資金に期待

またまた、軽率発言!?

 1月30日の日曜日、前原国交相は福岡市から諫早市に向かう列車に乗っていた。2月下旬に予定されている長崎県知事選挙の応援のためだ。その車中に乗り込んできた男がいた。佐世保市長の朝長則男だ。その手に1通の要望書を携えた朝長は「大臣、おじゃまして申し訳ありません。実は・・・」と切り出した。

 ちょうどその時、タイミングよく前原の携帯電話が鳴った。旧知の澤田秀雄HIS会長からだった。「HTBの再建を検討していたが、調べてみたら開業から18年近く経ち、ディズニーランドの倍ぐらいの敷地で建物も老朽化している。施設改修費はHISの手持ち資金ではとても収まらない。国の支援を検討してもらえないだろうか」

 朝長の要望書もHTBの再建支援を頼む内容だった。前原は書面を受け取り、説明を聞いた後で「お話はよく分かりました。企業再生支援機構の活用を検討されたらどうですか。機構の所管大臣である管直人副総理に話をしておきます」と答えた。

 前原にとっては朝長の乗車も澤田の電話も想定内の出来事だった。

 その日の朝、長崎県選出の衆議院議員で農林水産副大臣の山田正彦と電話で話したからだ。山田は言った。「1300人余りを直接雇用するハウステンボスが無くなれば、県内の雇用に深刻な影響が出る。前原さんは澤田さんの知り合いと聞いたので、HISからの支援を得られるようにプッシュしてほしい」

 前日に澤田と面会した山田は「国が動けば(断念の)判断を延ばすかもしれない」という言質を取っていた。

 列車を降りた前原は取り囲む報道陣に「HTBに対して企業再生支援機構の活用ができるかどうか菅副総理と相談して取り組みたい」と話した。前原にしてみれば知事選をにらんだリップサービスのつもりだったのだろう。だがHTB関係者と地元はこの一言に一縷の望みを繋ぐことになった。