『放射能の真実!』は、京都大学原子炉実験所の高橋千太郎副所長が、ニュースキャスターの辛坊治郎氏からの質問に答える形で、放射能の基礎知識と放射能汚染への対処法について解説した本である。

 高橋氏の専門分野は動物生理学だ。本物のプルトニウムを使って動物実験を行い、放射線が人体にどれだけの影響を及ぼすのかを研究してきた。「原発事故で放出された放射性物質によって、私たちはどれほど危険にさらされているのか」という、いま誰もが知りたい疑問に最も的確に答えられる専門家の1人なのだ。

放射能の真実!』(アスコム、辛坊治郎・高橋千太郎著、952円、税別)

 当然、テレビや新聞、週刊誌などが放っておかないはずだと思うのだが、不思議とマスコミには登場しない。いや、正確に言うと、登場しなくなった。

 原発事故が発生した直後は、マスコミからの問い合わせや取材が多々あったという。だが、高橋氏の解説はマスコミの「期待」に沿うものではなかったようだ。

 「テレビ局なんかはいきなり電話してきて、年間100ミリシーベルト以下の放射線は人体に影響があるんですか、ないんですか、どっちなんですかと聞いてくるんです。分からないとしか言えないんですよ、一言で説明するのは難しいんですよね、と答えていたら、いつの間にか取材されなくなりました」(高橋氏)

 確かに「分からない」では視聴者や読者が納得しない。インパクトにも欠ける。マスコミが求める回答でないことはうなずける。しかし高橋氏は、低線量の放射線が人体にどのような影響を及ぼすのか厳密には分からない、それは事実なのだと言う。

世の中の情報をそのまま受け止めるのは弊害が大きい

── 放射能への不安と恐怖が蔓延しています。都内に住んでいる私の知り合いは、プールの底に放射性物質がたまっているといって、小学校のプール開き前の掃除に自分の子供を参加させませんでした。校庭の草刈りにも参加させないそうです。

高橋千太郎氏(以下、敬称略) おそらく、見えないものに対する恐怖が極めて大きいんだと思います。人間の心情として、見えないもの、コントロールできないものを非常に危険視する傾向があります。

 また精神的にストレスが高い状態になると、極論に走りたがるものです。「危険かどうか分からない、だから危ない」と考えて、徹底的に遠ざけようとするんですね。

── 原発の是非は別にして、テレビや週刊誌、ネットなどの情報の中には放射能に対する不安を必要以上にあおっているものも見受けられます。