1月31日で議長としての任期が切れるバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長の米上院における再任承認手続きに、予想以上の時間がかかっている。ダウ・ジョーンズ通信が22日時点で上院議員100人のうち58人にコンタクトを取って議長再任への賛否を尋ねたところ、賛成24、反対15、態度未定19という結果。25日時点の調査では、回答した81人のうち、賛成35、反対17、態度未定29になっており、22日時点よりも賛成が増えているが、議事妨害を排除して承認手続きを行うのに必要な60には達していない。オバマ大統領が属している民主党の議員からも反対者が出ており、先に行われたマサチューセッツ州上院補選での民主党候補敗北の衝撃がいかに強かったかをうかがわせる。「オバマ旋風」が消え去り、米国民の間では「反ウォール街」機運が強まっている。そうした「風」の変化を見誤ると11月の中間選挙で議員の座を失ってしまうのではないかという危機感が、改選を控える議員などの間で強いのではないかと推測される。

 リード民主党上院院内総務が議長再任に賛成の意向を表明するなど、有力議員が事態収拾に動いているため、多数決でバーナンキ議長の続投が決まるシナリオが有力である。しかし、少なからぬ反対票を浴びての再任ということになると、議長としての権威やリーダーシップに傷がつく可能性がないとは言えない。

 ところで、昨年秋以降、バーナンキ氏やグリーンスパン氏など歴代のFRB議長に関する書籍や雑誌記事に接する機会が増えている。

 バーナンキ議長を2009年の「今年の人(Person of the Year)」に選んだ米誌タイムの12月28日・1月4日号は、数々の珍しい写真とともに、バーナンキ議長の日常を様々な角度から紹介した、興味深い内容。記事は最初の方で、バーナンキ議長を「変わり者(nerd)」と形容していた。

 スタンフォード大学教授(元財務次官)ジョン・B・テイラー氏の著書『脱線FRB』(日経BP社)は、住宅バブル発生の原因を、グリーンスパン議長時代のFRBがテイラールールを逸脱した低金利政策を続けたことに求める内容である。テイラー氏の試算によると、2002年から利上げを開始していれば住宅着工の急増とブーム崩壊は起こらなかったはずだという。しかし、この本には上智大学の大津氏による補論「テイラー=グリーンスパン論争の概要」が掲載されており、筆者としてはむしろ、そこで紹介されているグリーンスパン氏の反論の方に説得力があると感じる。「住宅需要に影響があるのはFFレートではなく住宅ローン固定金利であり、これはグローバルな貯蓄過剰にも大いに影響されて水準が決まってくるものである。したがって、連銀の政策金利と住宅投資の増加を直接関連付けて考えるのは適切ではない」というのが、グリーンスパン氏による反論の柱である。また、テイラールールで目標インフレ率を2%とすることの経済学的根拠が乏しいことなど、ウッドフォード氏によるテイラールールについての注意点の指摘にも、言及がなされている。

 ベテランFedウォッチャーであるレナード・サントウ氏の著書『FRB議長バーンズからバーナンキまで』(日本経済新聞出版社)はFRBによる近年の金融政策運営の短所を鋭く突いている。サントウ氏によると、グリーンスパン議長の時代に、コアインフレ率を一定の範囲内に収めようとすること、そのためにFFレート誘導水準を上下に動かすことにFRBはこだわりすぎて、他の政策アプローチ(準備率や株式証拠金率など)が使われなくなり、単純化の傾向が強まったという。バーナンキ議長については、「物価に対する思い入れが激しすぎるために、非常に重要な問題がいくつか視野から抜け落ちていたように思われる。たとえば、前任者の政策から生まれた問題の一つである住宅バブルに対し、然るべき注意が向けられることはなかった」と、サントウ氏は批判している。