読書傾向はどうしてもマンネリに陥りがちだ。最近は文庫本でも500円以上するのが当たり前だし、単行本だと2000円近い投資をしなければならない。ついつい、大外れする心配のないお気に入りの作家や、手堅い人気作家の作品を選んでしまう。

 しかし、「たまには新規開拓しよう!」という時には、思い切って「ジャケ買い」「タイトル買い」をしてみる。「ジャケ買い」は、もともとは、アーティストについてなんの予備知識もないまま、ジャケットのデザインや雰囲気に惹かれてレコードやCDを買うことをいう言葉だ。ジャケットやタイトルのセンスから、中身の良さに賭けてみる――という買い方である。

哄う合戦屋
北沢 秋著、双葉社、1,470円(税込)

 『哄う(わらう)合戦屋』は、まさに「ジャケ買い」の一冊だった。表紙は明らかに『のぼうの城』(和田竜著・小学館)を意識して作られているように見えた。共に戦国武将の横顔のイラストを大きく配した構図で、人物をフィーチャーした作品であることをうかがわせる。しかも、「のぼうの城」よりも、明らかにイケメンである。

 異色の歴史小説として人気を博し、直木賞候補ともなった作品にチャレンジしようという心意気を感じて、ついつい手に取りたくなった。

 舞台は、現在の長野県・松本深志のあたり。武田と長尾(=上杉)という、後の世にまで名を残すことになる両雄に挟まれ、名もなき小豪族がひしめく地。善政を敷き、領民からの人望を集める遠藤吉弘のもとに、召し抱えられることになった石堂一徹。

のぼうの城
和田 竜著、小学館、1,575円(税込)

 軍師として類まれなる才能に恵まれた偉丈夫。一徹が指揮を執れば、戦に負けることなど考えられない戦略家。遠藤家に召し抱えられるや、わずか半年の間に、3800石の領地を、2万石にまで拡大してしまう。物語の前段は、一徹の指揮の下、遠藤家が快勝を重ねる描写は心地よい。

 しかし、一徹の野望は2万石の領地では満たされることはなかった。「武田を討ち、殿を天下人にしたい」──とまで言う。

 一徹は無禄で吉弘に仕え、財も女も望まず、たった1人の家来と粗末な館に住まう。それほどの武人にして、清廉なる人物ならば、さぞや慕うものも多いかと思えば、一徹は常に孤独だ。当初は、一徹に信頼を寄せていた吉弘さえも、己の器量以上の高みに担ぎあげられる居心地の悪さに耐えきれず、一徹を疎んじるようになる。

 「誰からも真に理解されることのない天才の不幸」なのか、それとも、石堂一徹という人間の限界なのか──。一徹は、遠藤吉弘に抱えられる前にも、何人かの主に仕えたことがあるが、いずれも、長続きすることがなかった。天下を目指す戦いの中でしか、人間関係を築けない男。所詮は、「合戦屋」に過ぎない。

 ふと、今の日本に置き換えて、稀代の「選挙の天才」の顔が思い浮かぶ。自分自身が総理の座に就くことは望まないが、自分の采配によって天下を取るというゲームの魔力に取りつかれてしまった人物。選挙という戦いの構図の中でしか人間関係を築けない男。やはり、理解されない天才が不幸なのではなく、理解されることを拒否する天才に限界があるのだ。

 神輿に乗せられる人と、担ぐ人、それぞれの器量について、考えさせられる一冊。