新しい年を迎えた日本経済、そして国内長期金利は、どのように動いていくのだろうか。

 世の中では楽観・悲観双方の見方が混在しており、昨年終盤の株価上昇を背景に楽観派が勢いを増しているとも聞くが、筆者は悲観派に属している。その主な理由は、(1)大きなバブルが崩壊した直後の米国経済は構造調整圧力に当面さらされ続けるため回復力が脆弱であること、(2)人口動態を背景に国内の消費需要が「地盤沈下」を続けている日本経済は輸出依存の景気回復パスを今回も模索せざるを得ないこと、(3)日米ともに経済政策面での手詰まり感が強いこと、などである。鳩山内閣は輸出依存体質からの脱却を掲げているが、一朝一夕に実現できる話ではなく、しかも人口対策の面で踏み込み不足である。したがって、日本経済の当面の見通しを考える場合には現実問題として、日本の輸出が堅調に伸びていくための前提条件である世界経済の力強い回復、中でも中心点である米国経済が本格回復するかどうかを見ていくことが重要になる。

 2008年9月中旬に発生した「リーマン・ショック」が立証したように、世界経済は米国を中心として、モノとマネーの両面で、強くリンクしている。そして、輸出依存の日本経済については、米国をはじめとする世界経済の浮沈にぶら下がっている構図がある。米国が倒れると、世界経済が倒れる。米国が立ち上がれば、世界経済も立ち上がる。むろん、新興諸国については人口面および経済の発展段階ゆえに自律的に高度成長を遂げる潜在力はあるのだが、それら諸国には世界経済全体で見て米国の穴を埋めるだけの力がまだ備わっていない。さらに言えば、このところ見られている新興諸国の順調な景気回復については、財政・金融両面での景気刺激策の効果に加え、ドルキャリー取引による押し上げ効果が寄与している面がある。そうしたマネー流入による景気かさ上げ部分はバブルと紙一重であり、仮に何らかの理由で(例えば米国の利上げ観測の強まりなどで)投資マネー引き揚げが活発化する場合、たちまち崩れ去ってしまう危うさを秘めている。

 2009年11月24日、同月3~4日に開催された米FOMC(連邦公開市場委員会)の議事録が、四半期ごとに恒例の経済見通しとともに公表された。そこから感じ取れるのは、米国経済の先行きについて米金融当局者が抱いている慎重姿勢である。経済見通しに付け加えられたコメント部分には、次のような文章があった。「大半のFOMC参加者は、持続的な経済成長率、およびFRBの政策目標の解釈と合致する失業率やインフレ率によって特徴付けられる長期にわたるパスに十分収斂するためには、約5~6年が必要になるだろうと予想した」。住宅とクレジットという2つの巨大バブルが崩壊。住宅価格上昇や借金に立脚した米国の家計の過剰な消費が削ぎ落としを余儀なくされており、需要と供給のギャップが拡大しているという、一種の構造不況から米国経済が完全に脱するまでには、2014~15年頃までかかるというのである。もっとかかるのではないかと言う参加者も、数人いたという。

 米国の金融システムや雇用の状況も、非常に心配である。上記の議事録は、「資本市場では状況がかなり改善している一方で、銀行セクターでは信用状況はタイトなままであるという分裂状態が見られている。これは、大企業と中小企業との間で金融環境に違いがあることを意味している。小規模の企業は資金調達において、商業銀行に依存する傾向が強く、信用へのアクセスにおいてかなりの制約に直面している」と記述した。米国の大手金融機関については、ストレステスト実施と増資を経て、市場で一定の安心感が漂っている。しかし、地方・中小の金融機関は、経営破綻が相次いでいる。FDIC(連邦預金保険公社)によると、2009年7-9月期に「問題あり」と判断された銀行は552で、前期比+32.7%。雇用の状況が良くない上に、商業用不動産ローンの問題もくすぶっており、米景気回復を阻害する要因であるクレジットクランチ(貸し渋り)の早期解消は困難である。ベアーFDIC総裁によると、商業用不動産ローンの残高は2009年6月時点で1兆ドルを超えており、銀行業界全体の貸出・リース残高の14.2%を占めているという。

 また、雇用情勢についてFOMC議事録は、「労働市場の状況の弱さが、引き続き会合参加者の重大な懸念となった。失業率はしばらくの間、高止まりを続けることが予想される。経済情勢ゆえにパートタイムの仕事で我慢している人の比率の異例の高さや、平均労働時間の異例の低さからみて、景気回復が進行していく際にも、失業率の緩やかな低下しか起こらないことが示唆されている」と記述した。企業による雇用面のリストラが一巡することによって「ジョブロス」リカバリー(雇用喪失を伴う景気回復)を脱しても、「ジョブレス」リカバリー(雇用増加を伴わない力不足の景気回復)が待っている、ということである。個人消費はGDPの7割を占める、米国経済のメインエンジンである。その個人消費は、バブルの崩壊をうけた貯蓄率引き上げの動き(家計のバランスシート調整)に加え、芳しくない雇用情勢からも、大きな圧迫を受け続けることになる。