猛威を振るった台風15号は、震災の傷痕の残る東北地方も容赦なく襲った。その数日後、私は岩手県一ノ関市を訪れた。

 爽やかな秋空、思わず深呼吸したくなるような空気、まるで地震も台風も嘘だったかのようだ。しかし、駅から車で走っていくと崖が崩れている所があるなど、傷痕は生々しい。

 ここに来たのは、自衛官を支えている重要な装備品である半長靴(はんちょうか)の製造現場を見るためだ。製造している会社はミドリ安全である。東京都内に本社を構えているが、工場は東北が多い。

 田んぼの中にポツンと、その作業場の1つがあった。携帯電話は圏外になっていた。中に入ると、エプロン姿の30人ほどの女性たちが黙々と作業をしている。半長靴製造の最初の工程をここで行っていた。

自衛隊向けの半長靴を作る工場の様子

 微妙なカーブを作りながら皮を縫い合わせるけっこうな力作業を、簡単そうにやってのける。全てが丁寧な手作業である。

 だが、できるだけ素早く作業をこなさなければ到底間に合わない。というのは、今回の震災で派遣され、行方不明者の捜索などを行った自衛官たちは、瓦礫の中で活動する際に、足の裏にガラスの破片や釘が突き刺さるなどの事故が当たり前のように起きていた。

 そのため、丈夫に作られた靴でもかなり損耗してしまい、補正予算で大量に調達することになったのだ。

靴作りを担うのは周辺農家の主婦たち

 「靴ばかりは、不具合があっては動くことができません」と誰もが言うように、洋服のほころびならば多少我慢ができても、靴だけはそうはいかない。

 靴ずれがちょっとでもできたり、穴が開いたりしたら、途端に歩くのがイヤになる。40キロも50キロも行軍する自衛官にとっては、なおのこと大事なアイテムだ。

 履き心地を高めることはもちろん大切だし、何よりも隊員全体に行きわたるようにしなければならない。自衛隊の、特に陸自の個人装備品は、予算がないためになかなか全員に支給されない。だが、今回に限っては、さすがにそういうわけにはいかないのだ。