ある国が他国に対し、経済政策面での要求や要請を行う場合には、その裏側にある動機は何かを、よく考えてみる必要がある。あくまで親切心から「適切な政策はこうですよ」とアドバイスするようなケースも想定できなくないが、国どうしの利害がぶつかり合う経済外交の世界では、やはり稀だろう。要求や要請の背後には多くの場合、自国の利害を優先した深謀遠慮があるはずだと考えるのが自然である。
9月24~25日に米国のピッツバーグで開催されたG20サミットの首脳声明は前文で、現在は「危機から回復への重要な移行期にある」と位置付けた上で、4月の前回会合で合意され実施された政策総動員は「効果があった」と、誇らしげに記述した。
だが、「正常化してきたという感覚が慢心につながるべきではない」と、その後の部分でしっかりくぎを刺した。そして打ち出したのが、「不均衡是正論」である。
サミットが開催される直前にオバマ米大統領がこの話に言及していたことを考えると、ホスト国である米国の意向が反映された動きである可能性が高い。
具体的には、声明の別添に、「継続して大幅な対外赤字を計上するG20参加国は、開かれた市場を維持し輸出セクターを強化しつつ、民間貯蓄を支援する政策を実施し、財政再建を行うことを誓約する」「継続して大幅な対外黒字を計上するG20参加国は、国内における成長の源を強化することを誓約する」といった記述が盛り込まれた。
言うまでもなく、「継続して大幅な対外赤字を計上するG20参加国」は米国にほかならず、「継続して大幅な対外黒字を計上するG20参加国」とはもっぱら中国、さらに日本、ドイツなどを指している。
米国の経常収支(貿易収支)と財政収支の「双子の赤字」は、基軸通貨ドルの信認にもかかわってくる「世界経済の火種」である。だから日本や欧州は内需を刺激して貿易黒字を縮小させることで、不均衡の是正を図る必要がある。
為替相場の面では、米国の輸出促進に有利で、かつ日欧の輸入拡大に有利なドル安が望ましく、為替面から貿易不均衡の是正を図るためにはドル安誘導ないし容認が必要となる。
こうした議論は1970年代以降、幾度となく行われてきた。しかし、この不均衡是正論が今年9月というタイミングで再度前面に出てきたことに違和感を覚えたのは、筆者だけではあるまい。
米国の財政状況は、確かに悪い。市場の一部では、米国債の格付け(最上級のトリプルA)が将来引き下げられることへの警戒感が断続的に浮上している。
2009会計年度(2008年10月~2009年9月)の実績は1兆4171億ドルの赤字で、GDP比は10.0%まで膨張した。
だがこれは、景気悪化に伴う税収大幅減に加えて、景気対策や金融システム安定化策の発動で歳出が急増したことによるもの。平時に財政が放漫化したことによる赤字の増大ではない。
また、世界同時不況への対応で財政が悪化しているのは、程度の差はあれどの国でも同じである。任期中の赤字半減を公約しているオバマ政権の財政政策運営は、医療保険改革の成否も含めて前途多難ではあるが、これは根本的に米国自身の問題である。