ノルウェー・ノーベル賞委員会は2009年10月9日、今年のノーベル平和賞をオバマ米大統領に授与すると発表した。大統領が出した声明によれば、自身もその日の朝起こされて知ったほどのサプライズだったという。
受賞理由について、メディアの報道はいずれもオバマ外交の勝利を挙げた。2009年4月にプラハで表明した核廃絶に向けた国際協調外交推進の理念、そして6月にカイロで行ったイスラム世界に対する融和と対話の呼び掛けなどである。
しかし、オバマ外交の理念だけをノーベル賞受賞の原動力と見るならば、その本質の半分しか捉えていない。表面からは見えない、もう半分がある。それは2000年代に進んだ米国の安全保障戦略の変化だ。今回のノーベル平和賞の背景には、高性能通常弾頭使用のグローバル化と核不拡散の推進という、冷徹且つ現実的な米国の安全保障戦略の基礎がある。
授与声明と受賞声明の微妙なズレ
実は、ノルウェー・ノーベル賞委員会が発表した授与理由とオバマ大統領の受諾声明の間には、小さいが微妙なズレがある。
同委員会が2009年10月9日にオスロで発表した声明はオバマ大統領の受賞理由について、国連などを中心にした多国間外交の推進や、核廃絶へのビジョンが軍縮・軍備管理推進の力強い刺激剤となっていることや、気候変動及び民主主義・人権問題へのイニシアチブなどを挙げている。
一方、9日朝にホワイトハウスが急遽発表したオバマ大統領の声明も、気候変動やイスラエル・パレスチナ和平への取り組みに関してはノーベル賞委員会の考え方と歩調が合う。
だが、核についてはそうではない。核兵器がさらに他の国々へ拡散するのを許すことはできない、だから核兵器なき世界を追求するための具体的ステップを開始しよう、ただし核兵器の廃絶など自分が生きているうちには実現不可能かもしれないが皆で頑張ろう・・・。というロジックで続いていく。
深読みに過ぎるかもしれないが、ノーベル賞委員会が賞賛する核廃絶に向けての国際協調外交ではなく、オバマ大統領は核兵器が危険な国家へ拡散してしまうことを防ぐことが第一義とした上で、ゆっくりと核兵器配備の縮小を進めていこうと呼び掛けているように読める。理念に対して、現実論で返歌しているのだ。