国内需要の継続的な「地盤沈下」に、米国でのバブル崩壊という外的ショックが加わって、過少需要・過剰供給の状況がさらに深刻化。その帰結として、デフレ圧力が増大している。300円割れ、さらには200円割れの低価格弁当が登場するなど、「食のデフレ」に注目したリポートを筆者は何度か執筆してきたわけだが、今度は、衣食住のうち2番目の衣料品の世界で、いわば「衣のデフレ」が加速してきている。

 14日、ディスカウントストア大手が、税込価格690円の「驚安ジーンズ」を発売することを明らかにした。東京の店舗から販売を始め、全国に順次拡大。ジーンズのほかにも、ワインなど食品類を含む様々な品目で、「情熱価格」と名付けたプライベートブランド(PB)商品を投入する。原料調達・製造・物流コストの徹底した削減によって、驚きの低価格が実現したという。

 今年3月、大手カジュアル衣料品会社が990円という、1000円の大台を割り込む低価格ジーンズを発売して、話題になった。その後しばらくは新たな動きが途絶えていたが、夏のボーナスが記録的な落ち込みになった後、夏場から、価格帯の切り下げ競争が加速。8~9月に、複数の大手スーパーが880円のジーンズを投入。10月1日からは、別の大手スーパーが850円のジーンズを投入した。生地は中国製、縫製はバングラデシュに移して、一段の低価格を実現したという。そして今回、ついに700円割れという業界最安値が実現した。

 紳士物スーツの世界でも、「衣のデフレ」進行が報じられている。10月に入り、複数の百貨店が1着1万円を切る低価格のスーツを販売。大手スーパーでは8000円割れの商品も出ている。さらに、10月13日には紳士服チェーンが業界最安値とみられる5800円のスーツを期間限定で販売することを明らかにした。

 だが、こうした「衣のデフレ」を、総務省の消費者物価指数は、あまり捕捉できていない。

 消費者物価指数という統計は、「基本銘柄」と呼ばれる特定の品目について、継続的に価格調査を行うルールになっている。この統計には「男子ズボン(ジーンズ)」という品目があり、2005年基準で指定されている銘柄は、「ブルージーンズ、[素材]デニム(綿100%)、[サイズ]W76 ~82cm(又はW30~32)、中級品」。このところ話題になっている超低価格のジーンズは、調査対象には入ってきにくいと考えられる。

 実際に、全国と東京都区部の消費者物価指数で「男子ズボン(ジーンズ)」の動きを追ってみると、全国では足元でやや値上がり。一方、都区部では前年同月比マイナスの月が多くなってきており、9月は前年同月比▲1.3%となっている。だが、実生活での肌感覚に比べると、マイナス幅があまりにも小さい感は否めない。