米国市場が3連休に入る前の10月上旬、同国の早期利上げ観測が一部で浮上し、米国債が売られる場面があった。しかし、米国の景気・物価見通しや、要人発言などから推測される連邦公開市場委員会(FOMC)内でのハト派優位の状況に鑑みると、こうした見方は妥当性を欠いている。

 13日、コーン連邦準備理事会(FRB)副議長がセントルイスで、経済見通しをテーマに講演を行った。そこでは、ニューヨーク連銀ダドリー総裁と同様、インフレ率の上振れではなく下振れのリスクを警戒していることが、はっきりと示されていた。FRBから発表された講演原稿を見ると、次のような発言がある。

 「経済が回復を始めるとしても、生産手段の稼働率におけるかなりの緩み(substantial slack)がコスト上昇圧力を押さえ込み、競争的な価格環境が維持され続ける可能性が高い。私は、経済の緩みが持続することに加え、長期的なインフレ期待が安定していることから、インフレ率はしばらくの間、抑制された状態を保つだろうと予想している。むろん、インフレ期待が最近見られている現実のインフレ率に向かって水準を切り下げ始めるようだと、インフレ率はかなり低い水準へと動き得る」

 「すでに述べたように、インフレ率は抑制される可能性が高く、当分の間、基調的なインフレ率がさらに低下するリスクの方が上昇するリスクよりも大きいだろうと、私は見ている。そうした見通しはもっぱら、2つの判断に基づいている。第1に、景気はしばらくの間、潜在成長率を下回って推移し続けるだろうし、そのことは生産コストと収益マージンを直接抑制する。第2に、実際の経済活動が持続的に潜在成長率を下回り、現実のインフレ率が低水準にとどまり続ける中で、インフレ期待は今後、上昇するよりも低下する可能性の方が高い」

 今回の講演を読むと、コーン副議長は米国の景気回復が息切れして「二番底」に陥る懸念よりも、金利のゼロ制約にすでに直面しているFRBがインフレ率の下振れ(=デフレ)のリスクが浮上する場合どう対処すべきかという問題の方を、より心配している印象を受ける。

 一方、英国では同じ13日、9月の消費者物価指数(CPI)が発表された。前年同月比は+1.1%で、市場予想よりも下振れ。8月の同+1.6%から、0.5%ポイントの大幅鈍化となった。2004年9月以来の低率。前月比は0.0%になったが、9月に上昇しなかったのは1996年の現行統計開始以来、初めてのことである。