今回は、望まない妊娠によって誕生した子供たちについて書くつもりでいたのだけれど、あまりに気が重いので、その前段階として、子供を望み、育てるとはいかなることかについて考えてみたい。

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 2~3年前のことだが、昼飯を食べながらテレビをつけると、欽ちゃんこと萩本欽一がNHKのトーク番組に出演していた。途中からなので、話の流れは分からなかったが、女性アナウンサーが欽ちゃんに次のような質問を向けた。

 「萩本さんは、これまで何人もの新人タレントを発掘されているわけですが、その人に決める時のポイントのようなものがあるんですか?」

 「自分の長所に気づいていない人」

 ぽんと一言で答えて、欽ちゃんはどうだいと顎を突き出した。

 一方、女性アナウンサーは、「なるほど」と呟いただけで言葉が続かず、テレビには珍しい間が開いた。おそらく、私はそうではないと自省してしまったのだろう。

 それにしても「自分の長所に気づいていない人」とは言い得て妙で、私は感心した。テレビでは、気を取り直したアナウンサーが質問を続けて、欽ちゃんが答えていく。

 「だって、本人がこれだって思ってる長所なんて、大したことないに決まってるもの」

 実際、ここが私の素敵なところなのよ、もしくはここが俺の売りなんだぜと主張されるほど嫌味なこともない。もっとも、そうした思い上がりは当人だけの罪ではなく、彼ないし彼女を育てた両親をはじめとする周囲の大人たちの責任でもある。

 容姿の美しさ、並はずれた運動神経、衆に秀でた学力といった「長所」は、人目につきやすいだけに様々な誘惑に晒されて、場合によっては人生を狂わせることにもつながってゆく。

 つまり「自分の長所に気づいていない人」とは、自分の長所や欠点にとらわれずに成長してこられたという意味で、この上なく幸福な人でもあるわけだ。

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 子育てにおいて一番の楽しみは、子供の成長を目の当たりにできることである。首が据わる、寝返りを打つ、ハイハイをするから始まって、片言でおしゃべりをし、勝手なメロディーで歌らしきものを口ずさむに及んで、この子には音楽の才能があるかもしれないと思い込んだ経験は誰しもあるのではないだろうか。