東日本大震災では、東北に所在する防衛産業の工場も少なからず被害を受けた。福島県のIHI相馬工場もその1つだ。
すでに初夏の趣となった頃に足を運んだ。山の緑はまぶしく、空気は、そこが大震災に見舞われたことなど嘘のように爽やかだった。
IHIと言えば世界の民間航空機向けエンジンを製造している企業として知られるが、わが国の護衛艦や、F-2、F-15といった戦闘機エンジンなどをはじめ、多くの防衛装備品を手がけている防衛産業の1つでもある。
大地震の翌日から始まった復旧作業
「頭が真っ白になってしまったんです」
3月11日、その工場を震度6の大地震が襲った。「真っ白」とは判断力を失ったという意味ではない。天井が落ちてきて、文字通り頭が白い埃だらけになったということだった。
約1500人の従業員は、一瞬にして被災者になった。工場長は、まず、家族の無事が確認できないままではいけないと、従業員を家に帰すことにした。
ところが、帰したはいいが、携帯電話も通じなくなっており、連絡手段がないことに後で気付いた。しかし80人近い管理職などが心配をよそに、本来は休みである翌日、工場にいつものように来た。気の遠くなるような復旧作業が始まった。
東京本社では、現地の様子が分からず、ピリピリとしていた。「一体、どうなってしまったんだ」。あらゆる最悪事態が頭をよぎりながら、やっとつながった電話、しかし、その向こうの声は、驚くほどに明るさがあった。