世界的な経済危機はイノベーションを促進させると一般的によく言われる。市場経済下における企業の勝負は、いかに製品の競争力を高めるかという点にある。そのため、危機になればなるほど産業界はイノベーションに対して強い関心を持つのである。
ロシアにおいては、資源価格暴落が引き金となって経済危機に直面するのだが、そのたびにイノベーションを原動力とした経済成長に関する新たな議論が繰り返されてきた。今回の危機もその例外ではない。
昨年秋以来の原油相場の暴落を受け、資源依存型経済から脱出論、経済多様化論などが復活した。
その中で、政府が以前に打ち出したイノベーション型の経済基盤作りはどうなったかという声も上がった。今回はロシアにおけるイノベーションの新展開を見ていきたい。
1.国家とイノベーション
イノベーション型経済を立ち上げるためには、イノベーションに直接関わる産業だけでなく、金融機関やその産業をサポートする様々な産業の力を総動員する必要がある。そのためにはまず、市場経済原理に従って発展していく「イノベーション市場」というものを作る必要がある。
イノベーション市場は、イノベーションを実現する機関と、その事業に投資する意欲と資金を持つ投資家から成り立っている。ロシアでは、法整備の不備もあり、そのイノベーション市場がなかなか整備が進まないのが現状である。
連邦科学イノベーション局のプロジェクト事業の担当者のシェパレフ氏によると、ロシアの場合、実際に出てくるイノベーションの多くが基礎科学的な傾向が強く、商業化にすぐに結びつけることが難しいという。
つまり、これらの技術は商業化までの具体的なプロセス、あるいはどのような市場のニーズをターゲットにするかという側面は欠けているわけだ。そして多くの場合、短期間で売り上げが伸びないという理由で開発プロジェクトは却下されている。
イノベーションプロジェクトへの投資は通常の事業投資と異なり、短期間での投資回収を期待するのは誤りという常識があるが、ロシアではそれは通用しない。なぜなら、イノベーション市場に対する実務的な理解がないからである。