いよいよ始まります、裁判員裁判――。

 なんて、最高裁判所や法務省のキャッチコピーみたいですが、とにかく賛否両論、というより目立つのは反対論ばかりのこの新制度の第1号裁判が8月3日から4日間、東京地裁で行われます。ちなみに私は、制度としては大いに賛成派の1人です。なぜかは、後で説明するとして、先のキャッチコピーの話で1つ面白い話があります。

「裁判員参上」に法務大臣まで強く反発

 裁判員制度は、今年(2009年)5月21日、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」、通称「裁判員法」が施行されたことで法律上始まりました。で、政府はその1年以上前から裁判員制度の広報・啓発を大々的にスタートさせましたが、いきなり問題になったのが、法務省庁舎のある霞が関の一角、祝田橋交差点角に昨年(2008年)3月に設置された広報看板のコピーでした。

 「裁判員参上! 平成21年裁判員制度スタート」
 「よろしく裁判員・・・ご協力をお願いします」

 といったものでした。これが衆院法務委員会で問題にされ、議員から「堤防へ行ったり橋の下へ行ったりすると、何とか参上とかありますよ、ペンキでいたずら書きが。こんなセンスのものを作られたら、たまらぬと思いますね」と槍玉に。

 これに当時の法務大臣、鳩山邦夫氏も「正直言って、センスが悪いと思います。裁判員制度というのは国民の市民感覚を入れましょうというのに、何か市民感覚のない下手くそな文章を作ったなと思います」と、棹さしたのです。

 「どの広告会社がこれを書いたんですか」という議員の追及に、法務省は省内で考えた、と説明していました。その省内では、「暴走族みたいという指摘も当然。交差点でパッと目立つにはどうすればいいかを考えた末、(インパクトのある)暴走族をイメージして作ったという話だから。さすがに “夜露死苦” はまずいが、“参上” ならいいんじゃないか、と」という後日談もあるほど。

 だとすれば、その発想ぶり、私などから見れば、お役所的でなく、よほど一般市民感覚に近いと思いますが、皆さんはいかがですか。

米国よりも先を行く制度

 さて、ご承知の通り、裁判員制度は政府の司法制度改革審議会で、米英の陪審裁判、独仏などの参審裁判を参考に、日本独自の形態の制度として導入を決めました。独自の形態だけに、海外の司法関係者などから注目されているのも事実で、「量刑まで決定できない陪審裁判の米国より先を行っている」と評価する米国の学者もいます。

 世界に誇る制度のはずですが、今春から法務省が始めた「法令外国語訳」の300本以上の重要法令にいまだ入っていないのが不思議です。一刻も早い翻訳をお願いしたいものです。ちなみに、裁判員制度を先の米学者は「Saiban-in System」と訳していました。外国人との会話でぜひ使ってみてください。