苦学して立身出世、「経済大統領」は尊称にあらず

韓国大統領、空軍基地を視察

「経済大統領」、空軍基地を視察〔AFPBB News〕

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 なぜ、李大統領に韓国民の尊敬が集まらないのか。それを考えることは、日韓関係を展望する上で無意味ではあるまい。

 韓国人の間では一般的に、「経済よりも政治が上」「金儲けに走る人より文人の方が偉い」といった考え方が根強い。こうした価値観が柱となる社会の頂点に立つ大統領には本来、「『立派な人物』が就くべきだと考えられている」(政界消息筋)。それを見落とすと、この国の現状は理解できない。

 李大統領は日本の大阪で生まれ、一家で韓国へ引き揚げてきた。苦労して高麗大学に進み、卒業後は現代建設に入社。頭角を現して社長、会長に上り詰め、政界に転出した。国会議員やソウル市長を歴任後、とうとう大統領の座を射止めた。市長時代に市内を流れる清渓川の再開発を成し遂げるなど「仕事師」と目され、寝る間を惜しんで働きづめに働いてきた半生はテレビドラマになったほどだ。

 しかしその生き様と言動を、韓国の人々は「大統領にふさわしい『立派な人物』」と受け止めてこなかった。実際、圧勝が予想された大統領選の直前ですら、政官界では「彼は政治家に向いていない」(韓国の閣僚経験者)と公言する者が少なくなかった。

 韓国では今でも、保守陣営に限らず学歴を重んじる。現在の中高年層の世代なら「京畿高校→ソウル大学」(日本なら昔の「日比谷高校→東大」のようなもの)が文句なしの最高峰。このため韓国社会には以前から、「エリート層」に属さぬ李大統領を低く見る風潮が存在していた。

 李大統領に当初冠せられた「経済大統領」という呼称が、こうした風潮を端的に物語っている。大統領選で李氏へ投票した有権者の相当部分が、「李明博を好きではない。期待するのは経済の立て直しだけ」(ソウルの女性会社員)と考えていた。政治家としての大きなビジョンや、リーダーシップを発揮してそれを実現することは期待していないという点で、「経済大統領」は決して尊称ではない。

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 「立派な人物」と認められ、選ばれたわけではなかった。だからこそ、目に見える成果を早急に出せなければ、李大統領が見限られるのも早い。国民の信頼を繋ぎ留める手立ては見当たらず、大統領が号令を掛けても混乱収拾は難しい。

 日本では2009年7月21日に衆院が解散され、8月30日の総選挙が確定した。選挙結果がどうあれ、「数年は不安定な政治状況が続く」(経済官庁幹部)事態は避けられそうにない。

 そして海を挟んだ韓国でも同様に、内政安定には程遠い。となれば日韓2国間、さらに北東アジアにおける政治・経済分野の懸案について、両国が建設的な論議に入る余裕はなさそうだ。

 その一方で、2004年以降中断したままの日韓EPA(経済連携協定)交渉の再開や、米欧が将来をにらんで布石を打つ対北朝鮮経済進出への対応をはじめ、日韓双方が個々に、あるいは協調して取り組むべき課題が山積している。「ぐずぐずしている時間はない」(韓国の閣僚関係者)のに、両国の現状は何とももどかしい。