北朝鮮の金正日労働党総書記の健康状態や後継問題について、日本ではテレビのワイドショーも含めて仔細に報じられている。その影に隠れて一般の注目は集めてはいないが、韓国の政治情勢が混迷を深めている。
「強いリーダーを好む」(韓国主要紙幹部)お国柄だけに、指導力不足の感が否めない李明博大統領から、民心が離れた。ある意味で日本の政治と似た状況のところへ2009年5月23日、盧武鉉前大統領の自殺という前代未聞の事件が起こり、国内の不満は一気に高まっている。
韓国では1998年以降、金大中、盧武鉉両大統領による「進歩派」の治世が10年間続いた。しかし、盧政権下では不動産バブルや若年層を中心とした就職難、貧富の格差拡大など失政が鮮明になった。有権者は2007年12月の大統領選で「進歩派」と決別、経済と生活の安定を求めて「保守派」の李氏を選んだ。
とはいえ、政権交代で直ちに経済が好転するはずもない。2008年秋以降の世界同時不況も不運だった。ただ、「ネムビ(鍋)」と形容されるように、韓国人の気質は熱しやすく冷めやすい。期待に応えられない李大統領に失望するのも早く、就任3カ月で支持率は20%を割り込んだ。
盧前大統領の突然の死、火が点いた李政権批判
拡大する格差への鬱屈を募らせる庶民感情に火を点けたのが、盧前大統領の突然の死だ。
夫人や周辺への贈収賄疑惑で自身も検察の聴取を受けていた前大統領が、自宅裏山の岩場から投身自殺。「死者に優しい」韓国では、日本における「国策捜査」批判さながら、前大統領を取り調べた現政権を非難する声が盛り上がった。ソウルでは抗議集会が頻発している。
社会情勢の不穏化を受け、李大統領も融和策を打ち出した。7月6日、ソウルに保有するビルや土地など総額331億4200万ウォン(25億円超)相当の財産を寄付すると表明したのはその一環だ。苦学生への奨学金や福祉事業に使うため、財団を設立するという。
しかし、効果は出ていない。「見え透いた人気取り」(元韓国政府高官)と受け止められただけではない。「財団に資産を移すことで相続税逃れを狙っている」(政界消息筋)との見方さえ浮上し、大統領のパフォーマンスは失敗に終わった。