ケータイ時代の新サービスが続々登場
NTTドコモは、利用者同士が相手の指定口座に少額を入金できるサービスを今夏にも開始する計画だ。送金額は携帯の利用料金に上乗せして徴収する仕組みで、飲み会の会費徴収や、離れて暮らす家族への仕送りなどでの利用を見込んでいる。
類似のサービスではKDDIと三菱東京UFJ銀行が2008年7月に共同で設立した「じぶん銀行」が先行している。ドコモは資金決済法の成立を待ち切れず、みずほ銀行との提携によるサービス提供を選択したが、パソコンや携帯電話が1人1台時代となった今、銀行の窓口やATMに出向いて振り込み手続きをするような従来スタイルとは異なるサービスが求められていることを象徴している。
送金サービス業の最大の市場は「ネット通販やネットオークションの支払い」だろう。都市部ではコンビニでの収納代行が24時間利用できる便利なサービスとして定着しているが、加盟店審査が行われているため、家族経営の小規模事業者や個人同士の取引には使えないことが難点だった。
さらに「幹事が立て替え払いした費用の精算」「職場の仲間で連名で送るお祝い金の徴収」など、より現金に近い感覚でのサービスも有力視されている。いずれも、わざわざ銀行口座に振り込むほどのことではない。そして少額であればあるほど、異なる銀行同士などでかさむ手数料が利用者には気になるはずだ。
またエディやスイカなど既存のカード型電子マネーを手掛ける企業にとっても可能性が広がる。登録を受ければ、子供や父親に持たせた電子マネーカードに母親が小遣いを送金する仕組みも可能。現時点では不可能なカード内の電子マネーを現金に換金することも、法的には容認される見通しで、サービスの幅は広がるだろう。
民間金融機関の幹部は「護送船団時代が終わっても、銀行はついつい当局の顔色を窺うのが習い性になってしまい、柔軟な発想ができない」と自嘲する。「新規参入業者の方が、役所とのしがらみにとらわれず、伸びやかなサービスを生み出せるかもしれない」と見る。
外国人労働者の送金にも
ケータイ時代に、ATMで振り込みは時代遅れ?〔AFPBB News〕
さらに、国内顧客向けのサービス以上に切実な需要がある。それは日本で働く出稼ぎ労働者から母国の家族への送金だ。
財務省・日銀の国際収支統計によると、2006年に日本から海外に出た「労働者送金」は3666億円。それが2008年には4460億円まで膨らみ、今後も増加傾向が続く見通し。ところが、日本の大手銀行を通じて海外送金する場合、どれほど少額であっても5000円程度の手数料がかかる。送金手数料が出稼ぎ労働者にとって重荷であることは想像に難くない。
実は、送金手数料の重荷はこの10年来、国際的な課題となっている。2004年6月に米国シーアイランドで開かれたG8サミット(首脳会合)では越境労働者の問題に目を向け、「家族及び零細ビジネスを支援する送金サービスの促進」で合意。各国に手数料の引き下げを促すよう求めていた。
新制度で競争が促進されれば、日本でも簡便で格安な海外送金ビジネスが普及するかもしれない。国際金融筋はシーアイランド合意を踏まえ「5年越しの課題に道筋がついた」と語る。
長期化が予想される世界不況の最中、越境労働は各国にとって火種となりかねないが、一方で、少子高齢化が進む日本は、中長期的に海外からの労働受け入れを検討課題に挙げざるを得ない。手数料引き下げで、外国人労働者が働きやすい環境を整える意義は大きいのではないか。

