企業経営にとって、いかにして適材適所の人事を配置するかは最重要課題の1つである。

 実際に、中国に進出している日系企業の多くが経営難に直面する背景には、人材不足がある。すなわち、中国に進出している現地法人を率いる総経理(社長)人材が見つからないということである。

 現地法人は親会社の一事業部に過ぎないとはいえ、実際には創業者並みの苦労がある。それなのに日本企業が現地に派遣している責任者は創業者並みの素質を持つどころか、本社の顔ばかり伺うサラリーマンでしかない。本社からの指令を、たとえ間違ったものでも、ただ単に遂行していくだけである。

 しかし、このような経営体制では中国のような競争の激しい新興市場では到底戦えない。

戦略なき中国進出は成功しない

 企業が対外進出を成功させる前提の1つは、経営に携わる経営陣たちがコンセンサスを得ることである。すなわち、なぜ対外進出するのか、どのような体制で進出するのか、などについて意見の一致が必要だ。

 しかし、これまでの日本企業の対中進出の経緯を見ると、必ずしも社内でコンセンサスを得ているわけではない。特に大企業を中心に「同業他社が中国に進出しているんだから、うちも出なければならないのではないか」と漠然とした動機に基づいたものが多い。

 横並び意識に基づいた対中進出は、様々な弊害をもたらしている。まず、大企業を中心に、中国事業部門は予想以上に肥大化している。

 本社では、中国ビジネスについてそれほど熱意を持っているわけではない。それにもかかわらず組織だけが肥大化した結果、指示命令系統が分かりにくく、コンパクトな経営ができなくなっている。

 そして、現地法人をたくさん作ったものの、戦略的な投資が行われていない。「同業他社が中国に進出しているから自分も進出しなければならない」という思い込みから、きちんとしたマーケットリサーチも行わず、とりあえず部品の一部を中国で生産して、それを日本に逆輸入すればよい、という単純な考え方のようだ。このような戦略なき対外進出は成功しない

 さらに、現地法人の日本人スタッフの人件費が本社負担になっている点も、悪しき習慣となっている。欧米など諸外国の企業では、海外の現地法人の人件費は基本的に現地負担にしている。それによって長期にわたって採算が合わなければ、海外進出を続けることができなくなる。