2008年9月のリーマン・ショックから9カ月以上が経過した。そろそろ金融危機後の新たな世界秩序構築の動きに目を向ける必要があるだろう。その意味で、6月中旬に行われた2つのイベントの意義を指摘しておきたい。
ひとつは、6月16日にロシアのエカテリンブルクにおいて開催された、ブラジル、ロシア、インド、中国の新興4カ国による初のBRICs公式首脳会議だ。金融危機克服のために新興国経済の果たす役割などが協議され、「米国一極集中」時代から「多極化」時代への流れを強く印象付けた。もうひとつは、翌17日にオバマ政権が発表した「金融危機再発防止に向けた金融規制改革案」だ。金融サービスの利用者保護のため、政府や連邦準備制度理事会(FRB)の権限強化などを打ち出した。
いずれも、金融危機による直接的打撃の「修復」が前進したことで、世界経済「再生」に向けた新たな秩序構築という、次のステップに向けて事態が動き始めたと言えよう。
米国主導からG20中心の国際金融秩序へ
2008年11月ワシントン、4月ロンドンの2回のG20金融サミットを経て、「米国主導の国際金融秩序」から「G20による国際金融秩序」への大転換が進んでいる。今回の危機による打撃の甚大さから、日米欧など従来の主要国だけでグローバル経済を再生することが困難なことは明白だった。
一方、新興国はBRICs4カ国だけでも世界経済の15%、世界人口の40%のウエートを占めるまでプレゼンスを高めている。そのため、欧米先進国は主要新興国を自らのサークルに招き入れることにより、被った打撃の修復を急いだのである。
1997年のアジア通貨危機の際には、危機を招いた国の経済そのものへの信頼感低下が原因だった。そのため、国際通貨基金(IMF)から金融支援を受けたタイ、インドネシア、韓国は、様々な条件を課されて経済の構造改革に取り組むことを強いられた。
危機に瀕した国の経済に規律を指導し「欧米投資家からの信頼」を取り戻したうえで、米国主導で構築してきたグローバル経済の枠組みの中に組み込み直すこと。これが当時の米国とIMFによる支援の主たる目的だった。目指すものは、被支援国の発展よりは先進国経済を守ることであり、米国主導のグローバル経済のルールを貫徹させることだったのだ。
改善すべきは米国主導のルール
一方、今回は米国を中心とする先進国の金融システムの動揺が根本原因であり、それが一部の新興国の通貨危機や経済不振を引き起こしたという点でアジア危機とは因果関係が完全に逆転している。早急に信頼感を回復すべきは米国の金融システムそのものであり、改善すべきは米国主導のグローバル経済のルールだった。
BRICsを中心とする新興国は、「誰が悪かったか」といった不毛の議論をあえて横におき、金融危機の打撃の「修復」に、IMFとG20の枠組みでの対症療法に先進国と協調して取り組む対応を見せた。
しかし、今回の危機が、米国一極集中を許してしまった弊害であることは、G20各国は痛いほど認識したはずである。そうした反省から、米国主導のグローバル化の恩恵を享受するだけでなく、新興国自身がその拡大した経済規模と平仄を合わせて、世界秩序のルール作りに主体的に参画していくべきだという気運が生じている。
新たな規制の議論がスタート
もうひとつのポイントは、「規制の失敗」だ。グリーンスパン元FRB議長が今回の金融危機について3月27日の英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)に寄稿している。そこでは「リスクマネジメントが崩壊しても、規制という第2の砦が効果的に機能していれば、金融システムは崩壊しなかっただろう。しかし、実際には、規制は働かなかった」と自省の念を込めて論じている。