本日から2日間の予定で開催されている「第8回産学官連携推進会議」で、妹尾堅一郎・東京大学特任教授は、オープンイノベーションについてキーノートスピーチをする。それに先立ち、このコラムでは妹尾教授に日本におけるイノベーションモデルのあり方を2回にわたって聞いてきた。最終回の今回は、先進国との連携のあり方、新興国や発展途上国とはどのようにつき合うべきかなど、ディフュージョン(拡散)にとって不可欠な国際戦略を中心にお伝えする。

NIESやBRICsを取り込んで事業組み立てた欧米諸国

 前回はイノベーションにはディフュージョンが欠かせないことをインテルの例を中心にご説明いただきました。グローバル化が進んだ現在、それは緻密な国際戦略が必要になっているということだと思います。先進国や新興国、発展途上国とでは、その場合の取り組みも大きく異なってくるでしょう。先生はどのようなディフュージョンのあり方が日本にとっては必要だと考えていますか。

妹尾 日本の戦略を練るには、欧米がどのような戦略を取ってきたかを目に焼きつけておく必要があります。そこから説明しましょう。

 欧米企業は、イノベーションを効率的かつ加速度的に起こすために、NIES(新興工業経済地域)やBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の力を利用しました。ここにはコストが安くて生産性の高い労働力があります。また、今後の発展を期待するまでもなく非常に大きな市場があるのです。なにしろ数十億人という人口を抱えています。

 欧米企業はここに拠点を設け、製造はほとんど委託してしまった。開発は欧米、製造はこうした国々という分業体制を作ったのです。言葉は悪いですが、かつての植民地政策的な考え方で推進していきました。

 ただし、昔と決定的に違うのはNIESやBRICsの人たちがそれを喜んで受け入れているということです。製造工場ができることで雇用が生まれ所得が上がる。そして経済が発展するという好循環をもたらしたからです。

 かつての植民地政策を垂直分業とするなら、水平分業まではいかないので、斜形分業とでも名づけましょうか。

植民地支配時代とは違うウイン・ウイン関係の斜形分業

 斜形分業とは面白い言葉です。しかし、日本もASEAN(東南アジア諸国連合)や中国に製造拠点を設けて製造はかなり移管していると思います。不十分ですか。

妹尾 根本の発想が違うのではないでしょうか。欧米企業は製造部分はオープン化させて任せてしまう方式です。日本の場合は日本のある部分を持って行ったという程度でしょう。しかも日本企業として現地で生産している場合がほとんどです。

 欧米企業は、もはや製造部門は持たず、NIESやBRICsの企業に移管してしまいました。もちろん一部、自前で作っているところもあるでしょう。こうしてこれらの国々と持ちつ持たれつの強い関係を作ってしまった。その意味が大きいのです。

 日本の場合は中途半端なので、欧米とNIES、BRICsのような強い関係が作れていない。

 製造は新興国に移管、つまり丸投げしてしまうことで、自分たちは開発に特化、開発のスピードが上がり、新興国では逆に製造に特化しているので、製造のスピードや効率、品質管理の向上が一気に進むわけですね。