2009年6月12日、全米で1000局近いテレビ局がアナログ放送を打ち切り、地上デジタルテレビ放送に完全移行した。ニューヨーク・タイムズなどによれば、当日は、大きな混乱もなく、アナログ放送の歴史には静かに幕が下りた。
日本でも地デジ完全移行を2011年7月に控える。総務省の調査によると、国内での地デジ受信機の世帯普及率は2009年3月末時点で60.7%。地デジ難民を生まないためにも、先行事例である米国に学び、残る2年を有効に活用しなければならない。
2度も延期された完全移行
ここで、米国の地デジ移行の歴史を振り返っておこう。計画がスタートしたのは10年以上前の1998年秋に遡る。当初、設定された移行完了時期は2006年末だったが、周知徹底が不十分であったこともあり、デジタルテレビへの買い替えがスムーズに進まなかった。ブッシュ前大統領はアナログ放送終了期限を2年強延長し2009年2月17日の完全移行とした。
ところが、2008年秋のリーマン・ショックを引き金とする世界金融危機と景気の減退によって、低所得層のテレビ買い替え余力が一段と低下。アナログテレビで地上デジタルテレビ放送を視聴可能とする「コンバーターボックス」の政府補助クーポン券(40ドル)の申請者対応が100万件単位で遅延したこともあり、オバマ大統領は、就任直後に、移行再延期の緊急法案を提出、さらに4カ月の期間延期に踏み切ったのだ。
オバマ大統領は、これ以上の延期という、「三振ストライクアウト」ショックだけは何としても避けたいとの思いから、周知・広報活動を積極的に展開した。6月4日には声明を発表し、「周波数帯域が狭くてすむため、空いた分を警察・消防の緊急無線など非常時対応に活用できる」などデジタル化のメリットを再度説明。「緊急情報を漏らすことのないよう、デジタル化未対応の全員に行動を促す」と訴えた。
取り残された280万世帯
とはいえ、米テレビ視聴率計測会社ニールセンによれば、移行完了の1週間半前の段階で、280万世帯が地上デジタルテレビ放送受信に対して未対応のまま取り残されていた。その多くが、高齢者、地方在住者、貧困層などと見られる。