「ガンガン物件が動いていて、ようやく忙しくなってきた」(中堅不動産業者)。過日、取材中にこんな声を聞いた。
昨秋以降の世界金融危機で、新興デベロッパーや建設会社の破綻が相次いだだけに、久々に接する不動産関連の明るい話題に筆者は耳を傾けた。
また、丸の内や大手町界隈に繰り出すと、新しいビルが相次いで建設中だ。
政府が打ち出した景気対策の効果が出始めたのかと、淡い期待を抱きつつその内実を調べてみた。ところが透けて見えてきたのは、歪んだ市況の構造と危うい先行きだった。
鼻息荒い「大家さん」
冒頭に登場した業者は、主に都心や都心から近い地域のマンションや土地を扱い続けてきたベテランだ。メインの顧客は、都市部の地主層のほか、都心のアパートやマンションのオーナー、企業経営者など。一昔前の長者番付で上位に顔を出す大富豪ではないものの、「定期的な家賃収入を得ている小金持ちの『大家さん』」が中心だとか。
業者によれば、こうした大家さん層がこぞって1億~2億円程度の物件を積極的に購入し始めたのだという。これが、冒頭で触れた「ガンガン物件が動いている」ことを指している。
なぜ大家さんたちが物件購入に動いたのか。
背景には、まず「前年度の期末を越えたことで、銀行の融資が受けやすくなった」(金融筋)こと。また、「地価の下落ピッチに比べ、家賃相場の下げペースが緩慢なため、家賃と地価のギャップが運用上のメリットと映った」(同)からだという。
100年に1度と呼ばれる大不況による突風が一段落したことで、「景気回復とともに地価もジリジリと上がるとみている向きが多く、今が底値と一斉に動き出した」(同)ことが一番の要因だとか。
民間調査会社の調べによれば、首都圏のマンション販売もこの春を境に急激な下げが止まり、マイナス幅が徐々に縮まって実績が上向きつつある。
件の業者によれば、「大家さん」系の土地や既存マンションへの投資も、こうした傾向と歩調を合わせているという。
「いったい誰が入居するのだろう?」
大家さんの話題を拾った数日後、筆者は別件で某大手外資系金融機関に旧知の幹部を訪ねた。会った幹部は疲労困憊の様子。聞けば、大規模な人員カットと組織改編の陣頭指揮を執り、作業にメドがついたばかりだという。
世界的な金融危機の根源となった金融機関だけに、本国採用の大ベテランでさえ経験したことのない規模のリストラを断行したという。