米国は移民の国である。その政策は時代により濃淡はあるものの、今日に至るまで基本的に移民を受け入れるスタンスを貫いてきた。
筆者が在住するニューヨーク市も、多数の移民を抱えている。国勢調査によると、市民のおよそ3分の1が外国生まれ。市の公式人口は800万人超とされるが、実際には1000万人を突破しているとみられる。その差となる約200万人の大部分が、不法滞在移民になる計算だ。
ニューヨークでは料理の種類を問わず、「レストランのキッチンで働いているのはメキシコ人」と言われる。タクシーに乗れば、インド・パキスタン系や東欧系のドライバーにたびたび出くわす。ある日、「いいアルバイトがあるよ」と筆者が渡されたのは、ニューヨーク州裁判所が必要な各国語の通訳を求める広告。法廷では時に、日本語も必要になるのだ。
米企業が外国人の採用敬遠、移民は減少傾向に
その移民が最近、減少傾向に転じている。
米国への移民で最も多いのはメキシコ人。メキシコ政府の国勢調査によると、同国外への移民者数(不法移民を含む)が減っている。メキシコからの出国減は、米国への移民減と見て概ね間違いない。国境線を越えて米国入国を試みる際、不法入国者として逮捕されるメキシコ人の数も減少している。
ニューヨークの西隣、ニュージャージー州にある大規模なブラジル人コミュニティーでは昨年来、祖国へ帰還する人が目立っているという。その多くは、短期滞在の予定で入国後そのまま住み続け、長年米国で生活をしてきた人々だ。もともと許可された期間を超える不法滞在のため、一旦出国すると二度と米国の土を踏むことができない。それでも、帰郷を選んでいるのだ。
最近、移民法を専門とする知人の弁護士は「以前ほど仕事が忙しくない」とぼやいている。「100年に1度」の経済危機を背景に、外国人を雇用する企業が減少しているのだ。数百万人の米国民が失職している中、外国人の採用を敬遠するのだろう。
また、日系企業を含め、外国企業がニューヨークの拠点を閉鎖するケースも目立ち、筆者にも支店閉鎖手続きに関する相談が何件かあった。
グローバル都市再編成が移民形成、サッセン教授の学説
コロンビア大学のサスキア・サッセン教授によると、労働力の国際的な移動はニューヨークのようなグローバル都市の経済再編成により規定されるという。つまり、開発途上国と先進国の経済格差で移民を説明する従来学説に対し、サッセン教授は移民労働力形成を世界経済における都市再編成との関係で明快に示してみせた。