「JBpress ビジネスカレッジ」がお送りする連載企画「トレジャリー・マネジメント」の第3回は、欧米企業と日本企業、国内の大企業と中小企業におけるトレジャリー・マネジメントに対する取り組み、関心度の違いを、PwCあらた有限責任監査法人財務報告アドバイザリー部パートナーの福永健司氏が解説します。 

 

コスト削減に対する意識の違いが、欧米企業との格差を生む

PwCあらた有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部
パートナー 福永 健司 氏
PwCあらた有限責任監査法人において事業会社向けコーポレート・トレジャリー、および銀行向けトランザクション・バンキングのアドバイザリー業務のリー ダーを務める。メガバンク(約17年)、ITベンダー(約2年)を経て現在に至る。トレジャリーおよびキャッシュ・マネジメント、トレジャリー・マネジメ ント・システム、インターネットバンキング、B2B/B2Cコマース、国際決済システム、FinTech、BPR、商業銀行の勘定系システム・海外事務、 商業銀行会計および信託銀行会計、リスク&コンプライアンス、金融当局対応等の分野で27年以上の経験を持つ。

 日本企業のトレジャリー・マネジメントに対する取り組みのほとんどは、「資金管理の効率化・高度化」が中心となっています。

 第2回で紹介した図表「理想的なトレジャリー・マネジメント高度化の進め方」における2つ目の項目はできているのですが、「グローバル・トレジャリー・ポリシーの整備・展開」や「資金管理の効率化・高度化」の先までは進めていません。

 一方、欧米企業では同図表の4つ目、すなわち「決済業務の効率化・高度化」「リスク管理の高度化・効率化」の段階まで対応が進んでいます。欧米企業と日本企業の間で、これほどまでに格差が生じているのはなぜでしょうか。

 最も大きな要因は、コスト削減に対する意識の強さの違いだと思われます。当法人が欧米企業に対して実施した調査によると、キャッシュ・マネジメントを推進する理由のトップは、コスト削減でした。

図表1:欧米企業のトレジャリー・マネジメント推進ドライバー(PwC Global Tresury Surveyをもとに、PwCあらた有限責任監査法人作成)
拡大画像表示

 欧米企業は、金利や手数料など銀行取引コストに敏感であり、3~5年のサイクルで銀行にRFP(提案依頼書)を出し、最もコストパフォーマンスの高い銀行を選定するケースが多くなっています。また、人件費に関しても、トレジャリー・マネジメント・システム(TMS)などを導入して自動化を推進することでコスト削減を図るのが一般的です。トレジャラー(資金管理部門のトップ)は、コスト削減を目的としてトレジャリー・マネジメントを積極的に推進しています。

 一方の日本企業は、メインバンクの考え方が依然として色濃く残っており、銀行と長期的に良好な関係を構築することで間接金融による資金調達を安定化させようとする意識が強く見られます。そのため、グローバルで銀行に支払っている金利・手数料を把握し、これを積極的に削減する取り組みを進めている日本企業は多くありません。

 日本企業の場合、本業であるモノづくりに対するコスト削減は敏感であっても、おカネに関するコスト削減に対する意識は欧米企業に比べると希薄であるといえるでしょう。