全国の浄土宗諸寺院が所蔵する国宝や重要文化財などにより、浄土宗850年の歴史をたどる特別展「法然と極楽浄土」が東京国立博物館で開幕した。

文=川岸徹 撮影=JBpress autograph編集部

特別展「法然と極楽浄土」展示風景。(手前)《阿弥陀如来坐像》鎌倉時代・13世紀 京都・阿弥陀寺 (奥)国宝《綴織當麻曼陀羅》中国・唐または奈良時代・8世紀 奈良・當麻寺 展示期間:4月16日(火)〜5月6日(月)

浄土宗はなぜ人々を惹きつけたか?

 キリスト教、イスラム教とともに世界三大宗教に数えられる仏教は、インドで発祥した後、中国や朝鮮半島を経由して6世紀半ばに日本に伝わった。以降、仏教はその時代の世相や人々の心を映して多くの宗派に分かれ、文化庁が発行する『宗教年鑑』令和5年版によると、現在の宗派の数は156を数えている。

 そのうち代表的な8つの宗派である天台宗、真言宗、浄土宗、浄土真宗本願寺派、真宗大谷派、臨済宗、曹洞宗、日蓮宗は「日本八宗」と総称。中でも最大の信者数を誇るのが“浄土系宗派”だ。浄土真宗本願寺派が約775万人、真宗大谷派が約728万人、浄土宗が約602万人。他の宗派を大きく引き離している。

 なぜ浄土系の宗派は多くの人々の支持を集めているのか。まずは浄土系宗派の興りと成り立ちについて簡単に解説したい。

特別展「法然と極楽浄土」展示風景。重要文化財《法然上人坐像》鎌倉時代・14世紀 奈良・當麻寺奥院

 浄土系宗派の始まりは、平安時代の末期。比叡山で学んでいた法然は、繰り返される内乱や災害、疫病によって疲弊する人々を見て、誰もが救われる世を目指した。学びの中で中国唐代の僧・善導の教えに接し、当時としては極めて革新的な一つの思想に行き着く。「南無阿弥陀仏の念仏を称えることにより、誰もが等しく極楽浄土へ往生できる」。この思想に至った時こそ、浄土宗誕生の瞬間。1175(承安5)年、43歳だった法然は浄土宗の開祖となり、ひたすら念仏を称える“専修念仏”の教えを世に広めていく。

特別展「法然と極楽浄土」展示風景。重要文化財《選択本願念仏集》(廬山寺本) 鎌倉時代・12〜13世紀 京都・盧山寺蔵 展示期間:4月16日(火)〜5月12日(日)

 出家や修行の必要がなく、念仏のみで極楽往生できる。ある意味、お手軽ともいえる教えに、多くの人が夢中に。貴族から庶民まで幅広い層に支持され、浄土宗は現代に連綿と受け継がれる一大宗派となった。その後、法然の弟子にあたる親鸞が浄土宗から派生して浄土真宗を開き、さらに浄土真宗は戦国時代に分裂し、浄土真宗本願寺派と真宗大谷派に分かれている。