(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年12月3日付)
ドイツ前首相のアンゲラ・メルケルの回顧録は『Freedom(自由)』と題されている(ドイツ語の原題は『Freiheit』)。
だが、『No Regrets(悔いなし)』というタイトルがつけられたとしてもおかしくなかった。
メルケルは新著で政権を握っていた16年間を振り返り、すべてを考慮すると、正しい判断を下してきたと主張している。
バラク・オバマが自身の回顧録の次の巻を出版する時、同じように自己弁護するかどうかは興味深いところだ。
というのも、オバマ・メルケル時代が国際社会に残したレガシー(遺産)は、時間が経つとともに疑わしく見えてきたからだ。
一時代を築いた米独首脳
2008年から2016年にかけて、メルケルとオバマは西側世界で最も強大な力を誇る政治家だった。
2人は息が合った。
性格が似ているため、それは意外ではない。どちらもアウトサイダーで、ドイツ初の女性首相と米国初の黒人大統領だった。
メルケルは旧東ドイツ、オバマはハワイ州の出身で、ともに権力の中枢から遠い場所で育った。
メルケルもオバマも自信家で、高度な教育を受けており、生来の気質から知的で慎重だ。
こうした資質は、慎重で教育を受けたリベラル派を魅了した(筆者自身もその一人だったと認める)。
だが、後から振り返ると、その慎重な合理主義ゆえに、2人はウラジーミル・プーチンや習近平のようなストロングマン(強権的指導者)に対処するには不向きだった。