(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年12月3日付)

プーチン氏と習近平氏の腹の中を読み切れなかった2人を後智慧で批判することはたやすいのだが・・・(写真は2017年5月25日ベルリンのブランデンブルグ門前で開かれたキリスト教行事に出席したオバマ前大統領とメルケル首相=肩書は当時、写真:ロイター/アフロ)

 ドイツ前首相のアンゲラ・メルケルの回顧録は『Freedom(自由)』と題されている(ドイツ語の原題は『Freiheit』)。

 だが、『No Regrets(悔いなし)』というタイトルがつけられたとしてもおかしくなかった。

 メルケルは新著で政権を握っていた16年間を振り返り、すべてを考慮すると、正しい判断を下してきたと主張している。

 バラク・オバマが自身の回顧録の次の巻を出版する時、同じように自己弁護するかどうかは興味深いところだ。

 というのも、オバマ・メルケル時代が国際社会に残したレガシー(遺産)は、時間が経つとともに疑わしく見えてきたからだ。

一時代を築いた米独首脳

 2008年から2016年にかけて、メルケルとオバマは西側世界で最も強大な力を誇る政治家だった。

 2人は息が合った。

 性格が似ているため、それは意外ではない。どちらもアウトサイダーで、ドイツ初の女性首相と米国初の黒人大統領だった。

 メルケルは旧東ドイツ、オバマはハワイ州の出身で、ともに権力の中枢から遠い場所で育った。

 メルケルもオバマも自信家で、高度な教育を受けており、生来の気質から知的で慎重だ。

 こうした資質は、慎重で教育を受けたリベラル派を魅了した(筆者自身もその一人だったと認める)。

 だが、後から振り返ると、その慎重な合理主義ゆえに、2人はウラジーミル・プーチンや習近平のようなストロングマン(強権的指導者)に対処するには不向きだった。