小泉純一郎元首相の「麻生批判」発言で自民党は大揺れ、マスコミは大騒ぎ。世論のツボを押さえ、メディアの急所をつかむ発言は見事と言うほかない。小泉が投下した爆弾の破壊力はすさまじく、麻生太郎首相はいよいよ崖っぷちに追い込まれた。だが、ここは冷静に小泉の真意を考えたい。狙いは「郵政解散」の再現なのだ。国民はまた騙され、メディアは小泉に踊らされるのか。(敬称略)

世界料理サミット、都内で開幕 一流シェフが自慢の腕を披露

小泉劇場「第2幕」?     〔AFPBB News

 「笑っちゃうくらい、ただただ、あきれている」。2月12日、沈黙を破った小泉の発言は、麻生報道うんざりの政治メディアにとって一種の「清涼剤」に。「その通り、よくぞ言ってくれた」とひざを打ったはず。そうでなければ、大新聞が1面トップに持ってくるわけない。

 小泉発言にはポイントが2つある。

 1つは、定額給付金に対して「3分の2を使ってでも成立させなければいけない法案だとは思っていない」と明言したことだ。衆院再議決の際に自ら造反する可能性を示唆すると同時に、「小泉チルドレン」を念頭に造反もやむを得ないと促したから、自民党執行部は驚愕した。

 2つ目は、「政治で一番大事なのは信頼。特に、首相の発言に信頼がなければ選挙は戦えない」という件にある。国民の信頼を失った麻生では選挙を戦えない、と指摘したようなもの。自民党が生き残るには、「麻生降ろし」しかないというわけだ。

 小泉発言の真意について、いろいろ難しく考えない方がいい。単純にかつ素直に、受け止めるべきだ。今さら「郵政民営化に反対」と言い始め、自分のことを「奇人変人」とまで国会答弁した麻生を、小泉は許せない。麻生政権下で改革路線が次々と否定され、すべて「小泉が悪者」とされていく現状に我慢ならないのだ。

 実際、小泉改革によって格差が拡大し、地方は疲弊、後期高齢者医療制度が導入されるなど、「負の遺産」が残った。世界的な景気後退に伴い、構造改革路線も一時休止が必要だが、麻生の物言いだけは勘弁ならぬと小泉は感情的になったのだろう。

衆院再議決、「造反」16人の可能性は?

 当の麻生は、「叱咤激励」と受け止めているそうだ。とんでもない。小泉は「麻生降ろし」の流れをつくろうとしている。こう見るべきだ。

 定額給付金の財源裏付けとなる2008年度第2次補正予算の関連法案は現在、参院で審議中。野党が支配する参院で否決されても、衆院で3分の2以上の賛成で再可決すれば成立する。

 だが、与党から16人以上が造反して反対に回れば、再可決できず、廃案となる。そうなれば、麻生は解散するか、退陣するかしかない。だが支持率20%以下では、まず解散は無理。自民党幹部や閣僚が、麻生を羽交い絞めにしてでも阻止するだろう。となると、内閣総辞職しかない。

 しかし今のところ、造反が16人以上出る可能性はほとんどない。補正予算関連法案にいったん賛成しておきながら、再議決の際に「やっぱり考えを改めました」と反対票を投じるのは有権者への説明が難しい。

 再議決で反対すれば、「なぜ、1回目の投票で反対しなかったのか」と糾弾される。地元の選挙区は、既に定額給付金支給を当てにしており、給付金の意義を説明してきた経緯もある。自民離党の覚悟が必要だし、定額給付金導入を推進した公明党・創価学会からの選挙支援も断念するしかない。次期衆院選で出馬選挙区がまだ決まらない現職が何人か造反する可能性もなくはないが、今のところ麻生退陣に直結する数はまとまりそうにない。

 ただ、日本テレビの世論調査で内閣支持率がついに9.7%と1割を切り、時事通信でも16.4%と政権発足後最低まで落ち込んだ。

 補正予算関連法案の採決を、民主党はロシア外遊中の小泉が帰国する20日以降とする方針。小泉やチルドレンが採決で反対するのか、欠席するのか「踏み絵」を踏ませるつもりだが、発言に同調する議員が増えるようだと「事件」に発展する。