一国の準備資産として、どの中央銀行も金を持っている。しかしその比率を上げようとする例はついぞなかった。1990年代このかた金価格が低迷を続けた間、むしろ中央銀行は金を帳簿から外したがった。

2007年の金市場は、2006年以上の高価格で推移か - 英国

中国が金準備を大幅に増やしていることが明らかになった〔AFPBB News

 オフバランス化してリースに出し、利回りを生む資産に換えようとするのが流行だった。

 いま初めて、中国に逆の例を見る。中国人民銀行は、2003年以来金準備量をほぼ倍増させ、保有量にして米国、ドイツ、フランス、イタリアに次ぐ第5位に躍り出ていたことが明らかになった。

 「SAFE」とアジな略語(金庫という意)で呼ばれる国家外貨管理局(State Administration of Foreign Exchange)の局長胡暁煉(女性)が、国営通信新華社に対し明らかにした。一問一答が同局サイト(中国語)にある。

 増えたといっても準備資産全体に占める比率は低い。2%に満たない。同じ比率を米独仏伊について見ると、それぞれ78.9%、71.5%、72.6%、66.5%である。

 「人民元の値打ちを金で裏打ちしようとする動きではないか」――早速そんなコメントを随所に見るけれども、比率の低さからしてこれは早手回しに過ぎよう。

金準備の増加に計画性あり

 かといって偶発的な増加とも思えない。長期に眺めれば論理のしからしむるところ、金準備の増強には必然の成り行きと戦略があるはずである。以下の3点が指摘できそうだ。

 第1に、中国には準備資産の15%を金で持とうとする意欲がもともとあった。

 欧州中央銀行は、単一通貨ユーロを導入し発足した当時、同じ比率で金準備を持った。その前例に倣おうとしてのことだと、かつてワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)を率いたフクダ・ハルコ氏が言っていた。

 ちなみにフクダ氏はロンドン金融界で名をなした日本人女性で、WGCとは世界の金業者を束ねる業界団体である。

 これを聞いたのは2002年初頭。爾来(じらい)中国の挙動は知りようがなかったけれども、15%の目途には遠く及ばないにしろ、金準備を着実に増やしていたことが今回初めて明らかになった。

 すなわち中国の動きは、比較的長期の計画に立脚するものである。本欄はこれまで中国がドル支配に挑戦し、外貨準備を非ドル資産にしたがっている様を伝えてきた。そのことを考慮に入れると、金準備の増加には戦略性もあると言ってよさそうだ。